ファシズムはそこにある


2 安倍自民党は、かつての自民党とは異なっている

(1)おどろくべき歴史修正主義が政権を覆っている

わが国の政府は、公式にはかつての戦争を正しいものだとはしていない。そして、南京虐殺についても(犠牲者数について留保してはいるが)公式に認めている。

にもかかわらず、現職の総理大臣は南京大虐殺を否定しているのである(※1)。2015年10月10日、ユネスコは、世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の記録」を登録したと発表した。すると日本政府は、中国の主張には完全性や真正性に問題があるとして、ユネスコにたいする日本の負担金をカットするといいだした。(※2)

※1 朝日新聞DIGITAL 2012年05月16日記事「中日新聞が意見広告掲載拒否 河村市長の南京発言巡り」によると、安倍総理(当時は元総理)は、中日新聞に「私たちは、河村たかし名古屋市長の『南京』発言を支持します!」などとする意見広告を中日新聞に掲載しようとして、同社に拒否されている。河村名古屋市長が「南京事件はなかったのではないか」と述べたことを巡るもの。

※2 なお、日本政府は「シベリア抑留の記録」を申請している。

この他、稲田朋美議員は南京事件「否定派」として本多勝一氏を訴えたことのある弁護士であり、杉田水脈議員も新潮45における差別発言で猛批判を受けていたときに南京虐殺否定の集会で講演している。他にも南京虐殺を否定する議員は多い。そして、これらの議員は安倍総理の信頼する人物なのである。まさに、総理大臣とその側近が、旧日本軍の行為を正当化しているのである。

これは、ドイツでいえば、ネオナチが政権を握っているようなものである。我が国の民主主義にとって憂うべき事態というより他はない。

ナチと言えば、麻生副総理は、ヒトラーは動機は正しかった、ナチの手口に学べなどと、繰り返してナチに思い入れがあることを示す発言を行っている(※)。ファシストが政権を握っているというのは杞憂ではないのである。

 文春オンライン2017年09月02日記事「なぜ麻生太郎はナチスとヒトラーにこんなにこだわるのか?」など。


(2)レイシズムと排外主義が政権から湧き出している

ア 極端なレイシズムや偏見

安倍総理がわざわざ他党から引き抜いて比例区名簿の上位で当選させた杉田水脈議員が、LGBTQに対するレイシズム発言で悪名を馳せたことは記憶に新しい。このとき、自民党は徹底して杉田議員を擁護した。

この他、安倍政権の幹部には人権感覚に問題があるのではないかと思える人物が多いのである。麻生副総理は、野中広務氏に対して「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」と発言したことがある(※)

 魚住昭「野中広務 差別と権力」(2006年 講談社)による。

この他、沖縄の米軍基地に関して「それで何人死んだんだ」と国会でヤジを飛ばした松本文明議員、野党の女性議員を「セクハラとは縁遠い方々」とツイートした長尾敬議員、NHKに出演した女子高生に対するネットでのいじめに荷担した片山さつき議員と、枚挙にいとまがない。

イ 偏狭な愛国心を煽る行為

また、気になるのが偏狭な愛国心を煽る、韓国大法院の徴用工判決をめぐる最近のやりかたである。そもそもの原因は旧日本国政府による韓国への侵略行為である。しかも、日本国政府が、請求権協定によっては個人の請求権は消滅しないと国会で何度も答弁しており、大法院の判決はそれと矛盾しないのである(※)

 大法院が請求権を認めた法的な論拠は、個人請求権が請求権協定によってはなくならないというものではなく、請求権協定は強制徴用のような行為には及ばないとするものである。

この判決に対して、安倍政権と与党は(なぜか)韓国政府を罵倒し、日本人の愛国心に訴えて日韓の対立を煽った。外部に敵を求めて愛国心を煽り、自派への支持を集めようとするのは、古今の独裁国家の手口である。安倍政権から発せられた言葉は、「怒り通り越しあきれる」「国家としての体なしていない」「国際法上あり得ない」など、外交に必要な冷静さが感じられないものであった。これでは韓国の側も、愛国心を煽られるだろう。

これには、安倍総理の歴史修正主義が背景にあるのか、愛国心を煽って右派の支持を得ようというのか、麻生鉱山に類が及ぶのを避けようとしたのか、様ざまな見方があるようだが、いずれにせよ党利党略で我が国の国益を大きく損なったことは否めない。

そもそも、韓国の私人による在韓日本企業という私人に対する訴えなのだ。韓国政府に対して文句をつけるような話ではないし、抗議するにしても冷静に対応すれば、ここまで日韓の関係が悪化するようなことはなかっただろう。政府が国民の対外感情を煽るのは、戦前の「暴支膺懲」を彷彿とさせるファシストの手口である。安倍総理と麻生副総理が麻生鉱山を守るために、日韓対立を煽って国益を害したと言われてもしかたがないのではないだろうか。


(3)戦争の危機が具体的なものになっている

安倍政権の下で、戦争の危険が現実化している。日本人は、日本は1945年8月15日以降は戦争をしていないと思っている国民が多いだろう。だがそれは間違いである。

日本は、安保法の下で、戦争を行っている地域へ軍隊(自衛隊が軍隊であることを、今更、否定してみてもしかたがない)を派遣している。そして、戦闘行為を行う他国の軍隊の輸送や補給任務に当たっているのである。近代戦においては、直接の戦闘行為よりも補給活動の方が重要なのだ。

すなわち、わが国は、「戦闘行為」を行ったことはないが「戦争行為」はすでに行っているのである。また、南スーダンにおいて問題となった駆け付け警護は、わが国の軍隊が戦闘行為に巻き込まれる現実的な危険を含んでいた。本年には、2名の自衛官がシナイ半島の多国籍監視軍(MFO)の司令部要員として派遣されている。

この状況下で、安倍政権は憲法9条の改悪を画策している。安倍総理のような偏狭な愛国心を掲げる幼稚な人物によって、我が国が戦争を行うようなことはあってはならない。それは、我が国の国益を大きく損なうことになるのだ。

なんとしても憲法の改悪は避けなければならない。我が国の国民は安倍政権の危険性に早く気付くべきである。


(4)安倍自民党は、かつての自民党とは異なっている

残念ながら、安倍自民党はかつての自民党とは質が異なっているのだ。それに早く気が付かなければならない。森友問題、加計問題でこの政権は腐臭を放ち始めているが、これは自民党というより最終的には安倍総理夫妻に帰する問題なのである。

また、首相自身が、幼稚な性格で、野党の党首を「民主党の枝野さん」などと揶揄したり、友好国の元首に対して口汚くののしって反日感情を煽ってみたりと、歴代の自民党の首相の中でもきわめて質が低いのである。安倍総理だけではない。週刊文春に、酒に酔って議員宿舎内で裸になって廊下をうろつき、他の議員の部屋のインターホンを押したと書かれた議員までいるしまつで、政権全体の質が落ちているのである。

だが、そんなことはまだいい。何よりも党内の多様性が失われてしまったことが問題なのだ。歴史修正主義、レイシズム、旧家族感の復活など、安倍総理と考え方の近い議員ばかりになってしまったのである。昔はこうではなかった。総理が無理なことをすれば、有力な考え方の異なる議員が他に居てブレーキをかけたし、また野中広務議員のような第二次世界大戦への反省の念を持っていた議員もいたのである。

なぜこうなったのだろうか。その答えは明らかである。麻生副総理が「冷や飯覚悟が当たり前」と発言した、総裁選での石破氏への扱いを見れば分かるように党内民主主義がなくなっているのだ。さらにその原因を言えば、小選挙区制である。小選挙区制のおかげで、国民の支持がなくなっても(※)政権を失わない制度があるために一部の熱心な支持者だけを相手にしていればよくなったこと。また、候補者を首相が人選できるようになったため、首相に対してものを言える人物が選ばれなくなったのである。

 これについては田中信一郎氏「一部の熱狂的支持さえあれば安倍政権は強気でいられる。民意と乖離した権力を生む小選挙区制の弊害」が参考になる。

残念ながら、これ以上安倍総理に政権を委ねていれば、我が国の自由な気風は失われ、国家の健全な発展は望めなくなるだろう。

確かに、民主党時代にいろいろあったことは事実である。しかし、日本の健全な発展と民主主義を守るためには、現在となっては野党共闘による新政権を打ち立てるしかなくなっている。その上で、何よりも小選挙区制度を廃止することが必要であると強く訴えたい。