9条改悪より交流の促進を


1 初めに(続き)

(2)国民の危機感を煽る安倍政権

ア スクランブルに関するフェイク

自衛隊明記ってなあに

安倍総理は、自民党のパンフレット「自衛隊明記ってなあに?」の中で「例えば平成28年度領空侵犯に備えるための緊急発進(スクランブル)の回数は1168回であり過去最高となった」などと、危機感を煽っている。

だが、スクランブルとは同盟国以外の不明機が領海に接近してきたときに行うものである。公海上空を軍用機が飛行することは、米軍機、自衛隊機、韓国機なども日常的に行っている。そして、他国の領海ギリギリまで飛行することも日常的に行っているのである。

そんなものはお互いにやっていることであり、そんなことで危機感をあおるのはフェイクと言ってもよいほどのものである。現実に、中国機や韓国機がわが国の領空を侵すなどということは現実にはほとんどないのである。最近では2012年に尖閣諸島の領空を中国軍機が侵入したケースや2019年にロシア機が領空侵犯したケースはあるが、前者はともかく後者はミスによる可能性もあり、意図的な領空侵犯などほとんどないといってよい状況なのである。

イ 領土問題に関して

(ア)安倍総理の街頭演説から

安倍総理は、2012年10月25日に、知覧での街頭演説で次のように話している。

今、日本の美しい海や、領土、領海は脅かされようとしているんです。今、私は特攻隊記念館、短い時間ではありますが見学させていただきました。少年たちが、青年たちが、命を懸けて守ろうとしたこの日本を私たちは守っていく、その責任があるんです。

今、せっかくの12海里、日本の領海、堂々と中国の船が入って日本の海上保安庁の船に「ここは中国の領海です。出ていきなさい」と言っている。

こんなことは自民党時代にはなかった。竹島に韓国の大統領が上陸するようなことはなかった。北方領土にロシアの首脳が何回も上陸するようなことはなかったんです。

なぜこうなってしまったか。それは民主党政権による外交敗北なんです。日米同盟条約、日米同盟、この信頼関係を失ってしまいました。日米同盟とは何か。もし日本が侵略されたらアメリカの若い兵士が日本のために命をかける。それが同盟なんです。

 2012年10月25日の知覧における安倍総理の街頭演説より
(イ)領土問題と軍事問題を結びつけることは危険

領土問題は、世界各国が抱えている問題である。一部に深刻なケースもあるが、ほとんどの場合は領土問題があったとしても平和が保たれている。政府が、領土問題を軍事に結び付けて、堂々と街頭で主張するような「先進国家」は(日本を除けば)存在していないのである。

日本もロシアとの間に北方4島、中国(台湾)との間に尖閣列島、韓国(北朝鮮)との間に竹島の問題を抱えている。

安倍総理は、韓国、ロシアとの間の領土問題を、日米同盟によって有利に進めると言いたいようだが、これは「戦争で取り戻す」という丸山議員と同じレベルの話であろう。

領土問題を軍事行動によって解決しようなどという発想をすることは、平和国家として経済発展してきたわが国の国益を決定的に損なうのである。

韓国、中国、ロシアなどとの間にも、友好関係を結んでゆくべきであり、そのことこそが貿易立国である日本の利益につながるのである。安倍総理に特有の幼稚な意地によって、これらの国家との友好関係を損なってはならないのである。

(ウ)民主党時代に領土問題が後退したというフェイク

また、民主党時代に日米関係を損なったために、韓国とロシアが強気に出たと言いたいようだが、竹島の韓国による実効支配は1952年の吉田内閣(自民党の先輩の自由党政権)時代に始まったのである。

さらに、歴代自民党内閣は、北方領土のソ連、ロシアによる支配を事実上認めてきた。例えば、1963年の日ソ貝殻島昆布採取協定や、1985年の日ソ地先沖合漁業協定などで、北方4島の12カイリ内で日本漁船が漁をするためにソ連に対して採取権料を支払っていたのである。

しかも、中国公船の日本領海侵入は、確かにかなりの数があるものの、海上保安庁のサイトには「中国公船が我が国の主権を侵害する明確な意図をもって航行し、実力によって現状変更を試みるという、尖閣諸島をめぐり従来には見られなかった中国の新たな姿勢が明らかになった」のは自民党政権時代の2012年12月8日のこととされている。しかも、「日本の海上保安庁の船に『ここは中国の領海です。出ていきなさい』と言っている」などという話は海上保安庁の関係サイトにも書かれていない。フェイクというより他はない。

海上保安庁のサイトより

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たんなる領海への侵入ということであれば、公船であっても無害通行権があるのだから、そんなことを問題にしても意味はない(※)

 なお、中国公船の尖閣諸島周囲の領海への侵入については、日本国政府は「無害」ではないとして退去を求める方針である。

中国公船の尖閣周辺侵入回数

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そして、日本領海侵入が急増したのが民主党政権時代であったことは事実だが、これは尖閣列島を国有化した2012年9月からのことであり、日米同盟云々は問題外である。また、右図は海上保安庁のサイトに示されているものだが、これを見ると安倍政権に代わった2012年12月以降も変わりなく続いており、むしろ2019年には回数が急増しているのである。竹島と北方4島への韓国やロシアの政府高官の上陸も相変わらず続いている。2019年に入ってからだけでも、韓国は竹島で軍事演習を行ったり国会議員が上陸したりしている。またロシアも2019年7月にロシアの首相が択捉島に上陸している。安倍総理はこのことをどう説明するのであろうか。

それに対して、安倍政権は日米安保のために多額の国民の血税を浪費している。名護への普天間代替基地の建設の費用しかり、F35の147機の爆買いしかりである。日米貿易交渉でも米国の言いなりである。そして、その結果、韓国とロシアとの領土交渉は一歩でも進展したのであろうか。答えは”NO”である。