選択的夫婦別姓と自民党


菅総理や自民党の右派の女性の一部が選択的夫婦別姓に賛意を表する一方で、自民党そのものは選択的夫婦別姓に反対の立場をとっています。

自民党という政党が、自らの特殊な思想を国民の幸福よりも重視する政党だということがここから見て取れます。

結局のところ、国民の幸せのために自民党政府は妨げにしかなっていないということでしょう。




1 安倍総理の退陣と自民党内の選択的夫婦別姓の動き

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筆者:平児

「何が何やら訳が分からない」というのが現状を表す最も適切な言葉かもしれない。選択的夫婦別姓をめぐる状況である。

もともと、この制度への賛否はリベラルと保守の対立構造の枠組みとは異なっていた。リベラルは、ほとんどの方が賛成だったが、保守派の方は賛否が分かれていたのだ。
極右の日本会議のメンバーでさえ、賛成派はいる。最近セクハラで話題になった、日本会議幹事の野田聖子氏は朝日地球会議で、夫婦別姓制度に積極的な意見を述べている。

実は、安倍政権時代は、安倍総理が教育勅語をありがたがるほどの時代錯誤的な戦前思想の持ち主だったので、賛成派もなりをひそめていたという事情があった。

しかし、菅総理は空疎な教条主義よりも現実の利益を優先するタイプなので、自民党内の女性を味方につけるために、選択的夫婦別姓制度に一定の理解を示していた。野田聖子氏の発言には、このような背景があり、自民党内でも選択的夫婦別姓制度を進めようという動きが、一旦は盛り上がったのである。


2 夫婦別姓をめぐるこれまでの動き

2018年6月に野田聖子総務相(当時:以下肩書はその時点のもの)は「夫婦別姓は国策」と述べて選択的夫婦別姓に意欲を示した。貧困バッシングで悪名の高い片山さつき規制改革担当相政府も、保育士や介護福祉士が婚姻等で氏名が変わっても旧姓を使用できるようにするとの方針を表明していた。

一方、東京地裁は2019年10月に、夫婦別姓は違憲とは言えないという判断をしている。逆に言えば、政治に任せるという消極的な判断をしたわけである。

安倍政権は、同年11月になって、自民党内の賛成派との折り合いをつけるため、住民票とマイナンバーカードに旧姓併記ができるように改革を行った。これは、一見、前進のように見えるけれど、旧制度を温存するための「折り合い」ともいえた。かえって、夫婦同姓を固定させるおそれもあるのだ。そして、やや遅れて運転免許証についても同じ対応をしている。

これに対し、反対派の蠢動しゅんどうが始まる。ネット右翼に人気のある杉田水脈議員は、国会において野党の玉木議員の選択的夫婦別姓制度についての質問に対し「だったら結婚するな」とやじって大きな批判を浴びる。また、愛媛県議が「夫婦別姓で犯罪が増える」と発言し、物議をかもした。

下図は、2015年12月の杉田水脈氏のブログであるが、相手の姓になるのが嫌なら、『結婚しないことをお薦めします』と明記している。あきれた人権感覚の欠如としか言いようがない。

杉田水脈氏のブログ

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ところが、このような動きの中で、菅総理は、共産党の小池議員の質問に対し、前向きな回答をするところまでいったのである。

これにブレーキをかけたのが、杉田水脈議員らである。「男女共同参画基本計画」の「選択的夫婦別うじ制度」に関する記述に対して、原案の「必要な対応を進める」を「更なる検討を進める」に修正したばかりか「夫婦別うじ」という言葉を削除してしまったのである。杉田氏は、勝ち誇ったようにツイートしている。

杉田水脈氏のTwitter

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また、選択的夫婦別姓制度を求める意見書の採択を進める埼玉県議会の議員に対し、丸川珠代男女共同参画相が、反対を要請する書面に名を連ねていたことが判明し、大きな問題となる。皮肉なことに、丸川大臣は、国会で旧姓を用いて活動していた。
なお、この書面には、片山さつき氏、杉田水脈氏らも名前を連ねている。自民党の有志によるものなので、自ら望んでしたことであろう。


3 自民党は、国民の声を聴くのか、ネット右翼の声を聴くのか

国民の意思は、各種の世論調査に表れている。自らがそうするかどうかはともかく、容認派が反対派を上回っているのだ。また、実際に旧姓を用いて活動していられる方は多く、平児の知り合いでもかなりの女性を思い浮かべることができる。男性がおらず、女性ばかりということも、この問題が男女不平等の問題でもあることを示している。

平児は結婚と離婚で2度名前を変えて、各種の証明書の姓を変える手続きが大変だということを不便を身をもって味わった。旧氏絵を用いている女性たちは、さらに大変な不便な生活を強いられている。身分証の名前と自分の名前が異なることで、不便を感じているのである。これを解消するというのは、少なくない国民がその能力を十分に発揮できるようにするためにも、その幸福のためにも必要なことである。

そして、自民党は、野田氏らを中心に選択的夫婦別姓制度の推進を図ろうとしていたのである。

ところが、ネット右翼のアイドルといわれる杉田水脈氏らが、選択的夫婦別姓に反対の策動をしたことによって、自民党はあっさりと方針を変えてしまう。男女共同参画相という立場にある丸川氏までが、地方議会の議員に対し、露骨な圧力を加えて選択的夫婦別姓制度を妨害しようと諮っているのである。
菅総理も、国会において、「丸川大臣が一政治家としてこうした活動するということは、おかしくはないと思う」と支持を表明するところまで後退している。

自民党は、国民の声に耳を傾けることなく、多くの女性の声を無視して、ネット右翼の杉田水脈氏の考えに従ったのである。平児は、政権は野党に交替してもらうことを願っている。