見え透いた嘘をつく官邸


安倍総理が「退位礼正殿の儀」において「願ってやみません」と言うべきところを「願っていません」と読み間違えたとしてネットで話題になっています。

これに対して官邸の公式ツイッターが、調べればすぐに嘘と分かる反論をしています。

このように見え透いた嘘をつく総理官邸は、我が国にとって不安定要素=リスク要因となっています。




1 はじめに

執筆日時:

一部追記:

筆者:柳川行雄


(1)首相官邸のツイッター

5月24日に、いつものように首相官邸のツイッターを閲覧していて、奇妙なツイートを見つけた。それには次のように書かれていた。

【首相官邸5月24日付けツイート】

  • 1)一部の報道に、4月30日に挙行された『退位礼正殿の儀』での国民代表の辞の最後の部分を、安倍総理が『・・(前略)・・。天皇皇后両陛下には、末永くお健やかであらせられますことを願って「い」ません』と述べた、との記事があります。
  • 2)国民代表の辞は、同日の閣議で決定されたものであり、安倍総理はそれに従って述べています。
  • 3)閣議決定された国民代表の辞の当該部分は、「・・(前略)・・。天皇皇后両陛下には、末永くお健やかであらせられますことを願って『や』みません」とひらがなです。
  • 4)これらの報道にある漢字の読み間違いなどは、ありません。
  • 5)閣議決定された国民代表の辞を含む4月30日の模様は、当日以降、官邸HPに掲載してきており、既に多くの方がアクセスし、どなたでもご覧いただけます。

私自身、このツイートで初めて知ったのだが、調べてみるとどうもこういうことのようだ。安倍総理が「退位礼正殿の儀」において、前天皇皇后に対して「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願ってやみません」というべきところを「天皇、皇后両陛下には末永くお健やかであらせられますことを願っていません」と、逆の意味になる言い間違いをしたとの報道があり、一部に批判が起きているというのである。

あまり大きくは報道はされていないが、SNSでの話題が先行し、AERAdotにおいて田岡俊二氏が署名記事で批判したり、産経新聞系列のiRONNAで木村三浩氏が署名記事で批判的に報道したりしている。

この首相官邸のツイートはこれに対する反論ということのようだ。


(2)実際に言い間違えている

さて、首相官邸のツイートの5)で、「国民代表の辞を含む4月30日の模様は(中略)どなたでもご覧いただけます」と、いかにも余裕ありげに反論している。そこで、実際にYouTubeの首相官邸のチャンネル動画「退位礼正殿の儀(※)」を確認してみた。

※ 首相官邸がYouTubeにアップした「退位礼正殿の儀」の10分52秒付近の、総理の言葉で確認できる。

ところが、あきれたことに総理は明瞭かつ明確に「願っていません」と発音しているのである。活舌が悪くて聞きにくいなどと言うことではない。明確にそう聞こえるのだ。たぶん、よほどの先入観と思い込みを持って聞かない限り、「願ってやみません」などとは聞こえないだろう。

安倍総理の普段の話し方はどうだろうか? 国会答弁や記者会見は、テレビやユーチューブでいくらでも確認できる。確かに、普段の国会答弁でも、意味不明な答弁は多いが、活舌が悪くて「やみません」と「いません」の区別がつかないなどというようなことはない。

やはり、今回のことは言い間違いとしか思えないのである。

そもそも、「やみません」(YAMIMASENN)の活舌が悪いのなら「みません」(MIMASENN)とか「やいません」(YAIMASENN)とか「あいません」(AIMASENN)と聞こえるのではなかろうか。都合よく「いません」などとは聞こえないだろう。


(3)ひらがなで書いてあったから漢字の読み間違いはない?

さらに、首相官邸のツイートでは「閣議決定された国民代表の辞の当該部分は、「・・(前略)・・。天皇皇后両陛下には、末永くお健やかであらせられますことを願って『や』みません」とひらがなです」「これらの報道にある漢字の読み間違いなどは、ありません」と書かれている。

これは、AERAdot.が「『已む』読めなかった? 安倍首相が歴史的儀式で驚きの大失言」と報じたことへの反論であろう。確かに、4月30日にマスコミが報じた「国民代表の辞」でもこの部分はひらがなになっている。だからこの、首相官邸の主張そのものは正しいのかもしれない。

しかし・・・。実は、この言い間違いの直前に、「あらせられますこと」を「あられますこと」と読んで、言い直しているのである。これは動画で確認できる。そして、この部分もひらがななのである。

確かに、首相官邸のツイートが言うように「漢字の読み間違い」はないかもしれない。しかし、その直前に「ひらがなの読み間違い」をしているのである。だったら、「やみません」という部分がひらがなだったからといって読み間違いがないとは言えないだろう。

「ひらがな」で書いてあるから「漢字」の読み間違いはないのは、確かにその通りかもしれない。しかし、"ごはん論法"もここに極まったと言うべきであろう。漢字を読み間違えてはいません=読み間違えたのはひらがなです・・・あまりにもばかばかしくて笑う気にもなれない。


(4)姑息な隠ぺい工作もしていたのでは

さらに、首相官邸が姑息な隠ぺい工作もしているのではないかと指摘する声もある。木村三浩氏は、「首相官邸のホームページの『総理の演説・記者会見など』の表示形式を変更し、『関連リンク』から飛んでさらに下へスクロールしなければこの動画が見られないようにした」(※)として姑息なやり方だと指摘しておられる。

※ 木村三浩「なぜ安倍総理は「皇室軽視」を繰り返すのか」(iRONNA 2019年5月20日)

同氏によると「それ以前の演説や会見の模様は、画面を表示するとまず最初に映像が流れるように作成されている。それが、『退位礼正殿の儀 国民代表の辞』から突然、文面と画像というスタイルに切り替わってしまったのだ」という。同氏も指摘しておられるように、やはり不自然だというべきである。


2 なぜ我が国の政府は国民に嘘をつくのか

(1)政府は国民を舐めているのでは

一連の経緯は、「政治家というものは嘘をつくものだ」、「つまらない些末な事項だ」などと言って見逃せないものがある。

確かに言い間違いや読み間違いは誰にでもあることだ。そんなことに目くじらを立てるつもりはない(※)。国会答弁でも総理は、「云々」を「でんでん」と読み間違えたことがある。まあ、それもご愛嬌としよう。

※ ネットでは、緊張感が足りない、意味を考えずに官僚の書いた文章だけ読むからこういうことになるのだなどという指摘もある。確かにその通りだと思うが、ここではそのことには触れない。

問題は、官邸があまりにも見え透いた嘘をついていることである(※)。安倍総理の動画を視聴すれば、嘘をついていることは明らかなのだ。

※ 巧妙な、ばれない嘘ならよいと言っているわけではない。

このような明らかな嘘をつく政権は、国民を舐めているのである。「どうせ、バカな国民は動画を確認したりはしないだろう」と思っているか、「政府が『やみません』だと言えば、国民には『いません』も『やみません』に聞こえるだろう」とでも思っているのではなかろうか。

些末な話ではすまされない。政府が国民に嘘をつくということは、やはり重大な問題なのである。しかもここまで見え透いた嘘をつくということがさらに問題なのだ。


(2)政府が国民に嘘をつくことは許されないはずだが・・・

これまでも、この政権は国民に対して嘘を繰り返してきたのではないかと思えるようなことが多い。

森友・加計学園でも嘘を繰り返してきているとしか思えない。加計学園については、創設までは、鳥インフルエンザの研究ができる世界的に高レベルの大学だと言っていたが、できてしまったら図書館にろくに本もないという報道があったり、逆に同学園による鳥インフルエンザの研究成果があったとはまったく報道されていなかったりという実態がある(※)

※ そもそも施設的に鳥インフルエンザの研究はできないという指摘もある。

さらに、森友学園に関し、総理夫人の関与に関して公文書改竄が行われていたとの事実もある。

ないと言っていた南スーダンPKOの日報も、あとからあとから次々と出てきた。FNN(※)が報じたところによると、「稲田防衛相が陸自の日報データの存在を認識し、自らが隠蔽に関与したことを強くうかがわせる内容になっている」メモをFNNが入手したという。

※ 2017年7月25日FNN「稲田氏への「報告」示す直筆メモを入手」

片山さつき氏の収支報告の記載漏れも、これまたあとからあとから次々に出てきた。公設秘書の口利き問題の疑惑も解消していない。

工藤氏(国土交通政務官)に至っては、代表を務める政治団体が、支援者らから会費を集めた集会について、収入を政治資金収支報告書に記載していなかったという報道がある。これについては古谷氏(衆院議院運営委員長)も似たような疑惑が持たれている。

辺野古新基地問題でも、軟弱地盤について、当初は隠していたのではないかという疑惑が持たれている。まさに嘘で塗り固めたような政権だとしか言いようがないのである。


3 最後に

(1)国民に嘘をつく政権は危険だ

このように、平気で見え透いた嘘をつく安倍政権は、やはり、国民にとっても国家にとっても危険な存在であるというしかない。

憲法9条の改悪は、自衛隊の位置づけを明確にするためで現状は変えないなどと言っているが、実際には中東で米国の手助けをして戦争行為を行おうとしているとしか思えない。そして、その結果、我が国がテロの対象となることも考えられるのである。

最近、朝日新聞(※)に、自民党内で「失言防止マニュアル」を配布したという記事があった。しかし、安倍政権の場合、失言を防止するマニュアルよりも前に「嘘防止マニュアル」が必要なのではなかろうか。

※ 2019年5月22日朝日新聞「失言相次ぐ自民、防止マニュアル配布 幹部「あきれる」


(2)本件では政権の幼稚さも垣間見える

今回のことなど、言い間違いとして総理が謝れば済む話であろう。真摯に謝れば、国民も理解するのではないだろうか。それを、なんのつもりか、見え透いた嘘をつくところにこの政権の幼稚で危険な本質が見え隠れするのである。

天皇の前で「願ってやみません」を「願っていません」と言い間違えることなどあってはならないことだから、見え透いた嘘でも付くというなら、この政権は信用できないばかりか、将来、きわめて危険な行動をとるおそれがあるというべきであろう。

国益よりも、自党の"見栄"を優先するそれがあるからだ。安倍総理が政敵の声を聴けない幼稚な人物だということは、よく指摘されている。さらに今回のことでは、見え透いた嘘でもつくということが証明された。やはり、このような政権に、この国の政治を任せておくことは、我が国にとってリスクが高いと言うしかないだろう。


(3)首相周辺にものが言えるブレーンがいないのか

それにしても・・・。首相官邸が余計なツイートをしなければ、今回のことを知らなかったままの国民も多かったろうし、やがて沈静化していっただろう。結果的に見れば、わざわざ首相官邸が話を再燃させて大きくしたのである。

もちろん、このツイートを読んだとき、その通りだと思う読者もいるかもしれないが、わざわざ反論しているのはやはり何かあったのだろうと思う読者も多いだろう。そして、前者は、何もしなくても官邸のことを信じている読者なのである。

真摯に謝るなら別だが、この手のことに反論などしてみても何の利益にもならないのである。首相の周辺に、反論など止めた方が良いと進言するブレーンがいないのか、いても首相にそれを聞き入れる度量がないのか。

このようなことを、あえて見え透いた嘘をついてまでムキになって反論するところが、この政権が幼稚なことを如実に証明しているのではなかろうか。


(4)自民党・公明党政権は終わりにしよう

このような見え透いたことについて平気で国民に嘘をつく幼稚な政権は、国民のためにも、我が国の国益のためにもならない。国家のためを思うなら、次期、参院選において終止符を打つことが必要であると最後に述べて本稿を終えたい。