橋本聖子氏のフェイク


橋本聖子氏が日刊スポーツ紙のインタビューで「東大のある教授が、開催した場合に無観客でやれば(開催しない場合と)感染者数がほとんど変わらないというデータを示した」と主張しています。

これはとんでもないフェイクです。これは東大経済学部の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師らがまとめたシミュレーションのことを言っていますが「無観客で実施した場合」ではなく「人流増加がなかった場合」に感染者数の増加は限定的と言っているにすぎません。

このような露骨なフェイクまで主張して五輪を開催しようとする橋本氏にはあきれるばかりです。




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1 橋本聖子氏によるフェイクの主張

執筆日時:

一部加筆:

筆者:平児

五輪大会組織委員会会長の橋本聖子氏があきれたフェイクを主張している。

日刊スポーツ紙のインタビューで「東大のある教授が、開催した場合に無観客でやれば(開催しない場合と)感染者数がほとんど変わらないというデータを示した(※)と主張しているのだ。

※ 日刊スポーツ2021年06月03日「【単独インタビュー】橋本聖子会長が断言「五輪中止、再延期はない」<1>

橋本氏は用心深く「東大のある教授」などと明確な原典を述べずにごまかしているが、東大経済学部の仲田泰祐准教授と藤井大輔特任講師らがまとめたシミュレーションのこととしか思えない(※)

※ 日本経済新聞2021年05月24日「五輪入国「感染増は限定的」 無観客など人流抑制が必要

仲田准教授らのシミュレーションは、「人流の増加がなければ」感染者数の増加は小規模なものとなると言っているのである。そのために「無観客開催やパブリックビューイングなど関連の民間イベント自粛要請など国内の人流の抑制が必要」と指摘しているのであって話が逆である。

人流の増加がなければ、感染者数の増加は限定的になると言っているのであって、橋本聖子氏の主張するように「無観客でやれば感染者数が増加しない」などとは言っていない。


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2 仲田准教授らのシミュレーションの問題点

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(1)論理構成がたんなるトートロジーにすぎない

仲田准教授らのシミュレーションの最大の問題点は、「人流が増加しない」ということを前提としていることである。「人流が増加しなければ感染者数が増加しない」というのは「感染機会が増加しなければ、感染者数は増加しない」と言っているのと同じである。

たんなるトートロジー(※)である。人流が増加しなければ、確かに感染者数が増加しないだろうということは子供にでも分かる。問題は、人流を増加させないための方法をどうするかである。

※ 論理学で「常に真となる論理式」のこと。「今のままではいけないと思います。だからこそ、日本は今のままではいけないと思っている」というのと変わりはない。

仲田准教授らは、前述したとおり「無観客開催やパブリックビューイングなど関連の民間イベント自粛要請など国内の人流の抑制が必要」と指摘しているが、「無観客で実施すれば人流が増加しない」などとは言っていない。問題は、まさにここにあるのだ。無観客で実施すれば、人流を増加させないことができるという根拠は示されていないのである。


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(2)前提が誤っている

また、仲田准教授らのシミュレーションは原典がWEB上に公表されていないため直接読むことはできないが、日本テレビによると「国内でのワクチン接種が1日60万回のペースで進むという仮定に基づいて」おり、「たとえ10万5000人が来日しても、東京都の人口1400万人に比べたら1%にも満たない数でしょうし、選手らの半数はワクチンを2回接種していると考えて、影響は限定的という見立てです。選手たちも、固まって選手村に入ると思われます(※)ということのようである。

※ 日テレNEWS 2021年05月26日「オリンピック「中止」「開催」で感染者数どう変化? カギは“人流”の抑え方

現実には、ワクチンの接種数は、5月24日から6月3日まで、多い日でも1日に50万回程度で少ない日は35万回程度である(※)。また、選手が選手村から外へ出ないことなどあり得ないだろうし、人流が増加しないなどということはあり得ない。また変異株にワクチンが効果的かどうかも考慮されていないのではないか。

※ 首相官邸サイト「新型コロナワクチンについて

仲田准教授らを批判する気はないが、前提が誤っているのである。シミュレーションの前提を無視して結論だけを持ち出す橋本氏の主張は、ごまかしというべきである。


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3 橋本聖子氏のごまかしとは

橋本聖子氏は、中田准教授の論理を逆転させて「東大のある教授が、開催した場合に無観客でやれば(開催しない場合と)感染者数がほとんど変わらないというデータを示した」という嘘をついているのである。

橋本氏は「無観客」で実施すれば「人流は増加しない」と主張されるかもしれないが、これは論理が飛躍しすぎている。「選手たちも、固まって選手村に入る」などとは、誰も思わないだろうし、「海外の大会関係者も含めると、五輪で計25万人、パラリンピックで計13万人が大会で活動する。五輪で働く(※1)のである。また、選手にはコンドームが無償配布されるという話まである(※2)

※1 朝日新聞 2021年06月02日「五輪ボランティア、1万人が辞退 大会関係者数を初公表

※2 日刊スポーツ 2021年06月03日「『するな』と言いながらコンドーム配布 五輪組織委へ米メディアが突っ込み」による。なお、平児はコンドームの配布に反対するつもりはないし必要なことだとも思う。

しかし、東京スポーツ2021年05月30日「【東京五輪】組織委の〝コンドームお持ち帰り〟見解は海外に通じず『うそでしょ』『日本人て…』」によると、五輪組織委員会はコンドームの配布について「選手村で使うというものではなく、母国に持ち帰っていただき啓発にご協力いただくという趣旨・目的のもの」と説明しているそうだが、この説明は信じられない。

海外から多くの人々が来日すれば、彼らは必ず日本人との接触があるだろうし、東京都外へ移動することを防止することなどできるわけもない。


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4 五輪をただちに止めろ

橋本氏が、このような露骨な嘘をついてまで、五輪を実施しようとする意図はいったい何であろうか? その答えをジュールズ・ボイコフ氏はきわめて分かりやすく看破している。「五輪開催へ強引に突き進む理由は三つ。カネ、カネ、そしてカネだ(※)と。まさにその通りだろう。

※ 時事通信 2021年05月12日「『危険な茶番劇やめる時』 米紙、中止求めるコラム掲載―東京五輪

国民の多くは五輪開催に反対か再延長を望んでいる(※1)。尾身氏も「パンデミックの中で五輪やるのは普通ではない」(※2)と発言しておられる。

※1 毎日新聞 2021年05月22日「東京オリンピック『中止』『再延期』が6割超 毎日新聞世論調査」、朝日新聞 2021年05月17日「五輪『中止』43%、『再延期』40% 朝日世論調査」など

※2 朝日新聞 2021年06月03日「尾身氏『パンデミックの中で五輪やるのは普通ではない』

様々な専門家の意見のうち、自分に都合のいい部分だけ集めて、アリバイ的に「専門家の意見」を挙げるのは卑劣なやり方である。五輪の開催などただちに中止にするべきだ。