土地取引等規制法案とは


第185回国会に提出された「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案」という法律があり、継続審議となって、その後に一旦廃案になりました。

その後も、繰り返し提案されていますが審議に至らず現在に至っています。国民の私権制限の危険性のある危険性の高い法案と言えます。

このような法案を繰り返して提出する自民党の態度は、我が国の民主主義は危機に陥れるものといえます。




1 国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案とは

執筆日時:

筆者:平児


(1)国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案

第185回国会以降、現在開会中の204回国会まで、繰り返し自民党から国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律案という国民生活に重大な影響を与える法案が国会に提出されている。

この法案は、一言で言えば、米軍・自衛隊の基地や、原発等の重要インフラの周辺を「重要国土区域」として内閣総理大臣が定め、土地、建物の所有者の名前や国籍、利用実態などを国が調査できるようにするなどとするものである。

現在204国会で審議されている「土地利用規制法案」の基になった法案というべきものであり、自民党・公明党政権が最終的に何を目指そうとしているかを予測させるものと言えよう。


(2)重要国土区域とは

内閣総理大臣が定める重要国土区域とは、具体的に言えば、次の地域が当たる。

【重要国土区域(法案第4条)】

第1種重要国土区域

以下の区域の中から、その土地等の取引等が国家安全保障の観点から重大な支障となるおそれがある区域を内閣総理大臣が指定する

  • ① 防衛施設
  • ② 原子力施設等国家安全保障上重要な施設及び設備の敷地
  • ③ ①及び②の周辺の区域
  • ④ 国境離島(領海から12海里以内の島)

第2種重要国土区域

上記①~④の中から、その土地等の取引等が国家安全保障の観点から支障となるおそれがあるため、当該取引等の状況等を把握する必要がある区域を内閣総理大臣が指定する。(第1種重要国土区域を除く)

ここで重要なことは、重要国土区域(第1種及び第2種)は内閣総理大臣が、国会等の承認を得ることなく、内閣総理大臣が決定する基本方針(法案第3条)に基づいて定めることができるということである。

また、内閣総理大臣は、重要国土区域の指定のために以下のことを行うことができる。

【内閣総理大臣の重要国土区域の指定のための権限】

  • ① 指定のために必要があるときは、現地において調査を行うことができる。
  • ② ①の規定による調査のため、その土地若しくは建物内に立ち入り、又は特別の用途のない他人の土地を作業場として一時使用することができる。この立ち入りは、事前の通知及び直前の告知のみで可能となる。
  • ③ 土地又は建物の占有者又は所有者は、正当な理由がない限り、②の立入り又は一時使用を拒み、又は妨げてはならない。(罰則あり)

(3)重要国土区域の内閣総理大臣の権限と規制

そして、重要国土区域については、同法案第5条から第12条の規定により、内閣総理大臣は以下のことができるようになる。

【内閣総理大臣の重要国土区域における権限】

  • ① 重要国土基礎調査の実施(土地の所有者、地番及び地目、利用の実態その他内閣府令で定める事項に関する調査並びに境界及び地積に関する測量)
  • ② 土地の所有者の把握に関する情報提供の要求等(関係行政機関の長、関係地方公共団体の長その他の関係者に対して、重要国土区域内の土地の所有者の把握に関して必要な情報の提供を求める)

また、第1種重要国土区域については、以下のような規制がかかる。

【第1種重要国土区域における規制】

  •  土地等について取引等を行おうとする者は、あらかじめ当事者の氏名又は名称及び住所、内容、当該土地等の利用の目的、実行の時期その他の内閣府令で定める事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。(罰則あり)
  •  届出をした者は、届出が受理された日から30日(例外規定あり)は、その取引等を行ってはならない。
  •  届出に対し、内閣総理大臣は、内閣府令で定めるところにより、その取引等の内容の変更又は中止を勧告することができる。
  •  勧告に対し、応諾しない場合、土地の取引を最大で5か月間できなくなり、さらに勧告が命令に変わることがある。
  •  区域内の土地等について、国家安全保障上特に必要であり、かつ、当該土地等を国が取得し、これを管理することが適正かつ合理的であると認めるときは、国は、これを収用することができる。
  •  土地等の収用の実施に関する担当部局の長は、収用に係る手続の準備のため必要があると認めるときは、土地等の所有者その他の関係者に対し、資料の提出を求め、又は当該職員をして質問させることができる。

第2種重要国土区域については、以下のような規制がかかる。

【第2種重要国土区域における規制】

  •  土地等について取引等を行おうとする者は、あらかじめ当事者の氏名又は名称及び住所、内容、当該土地等の利用の目的、実行の時期その他の内閣府令で定める事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。(罰則あり)

2 法案の問題点

(1)拡大解釈のおそれ

 土地利用規制法案も同様であるが、この法案ではさらに「重要国土区域」の指定できる地域が曖昧あいまいであり、内閣総理大臣の恣意しい的な指定を許す恐れがある。

 「原子力施設等国家安全保障上重要な施設及び設備の敷地」というが、何を持って「重要」と言えるのかが明らかではなく、また「周辺の区域」にも定義はない。従って、内閣総理大臣が自由に決定できることになる

(2)人権侵害のおそれ

ア 令状や事前の予告なく、住居棟への立ち入り調査が可能

この法案第5条では、「重要国土区域」を指定するかどうかを調査するために、行政官(※)が土地等(土地若しくは建物又はこれらに定着する物件)に立ち入り検査を行うことが可能で、しかもそれを拒否することに罰則(6月以下の懲役又は30万円以下の罰金)がかかるのである。

※ 内閣総理大臣又はその命じた者若しくは委任した者。

しかもこの立ち入りは、同条第3項により「あらかじめ通知することが困難であるときは」、事前の通知なく行うことができるのである。

これでは、政府は、令状なしに自由に国民の家屋に入って、その家屋内の調査を行うことができることになる。まさに独裁国家とも言うべき状態であり、明らかな憲法違反の条文である。

イ 土地取引の制限や収容が可能

この法案第17条~第26条では、第1種重要国土区域内の土地等について、国は「国家安全保障上特に重要であり、かつ、当該土地等を国が取得して管理し、又は使用することが適正かつ合理的であると認めるときは、この節の定めるところにより、これを収用し、又は使用することができる」と定めている。

しかもこの収用は、第19条の規定により、内閣総理大臣の認定によって可能になるのである。裁判所や国会が関わる余地はない。また、平時においてもこの収用は可能である。

従って、日本政府が米軍基地を拡幅したいと考えれば、自由に国民の土地を収用して使用することが可能になるのである。

ウ 土地の売買等の禁止が可能

「重要国土区域」内の土地等については、売買等の取引をしようとする者は事前の届け出が必要となる。そして、国は最大5箇月までその取引を禁止することができる。

この禁止に違反した場合は罰則が科せられるのである。


3 自民党が目指す社会とは

この法案を自民党は、繰り返し国会に提出してきた。すなわち、自民党が目指す社会とは、この法案に記されているように、国家が自由に国民の家屋に立ち入り検査を行うことや、軍事基地建設のために国民の財産を自由に収容することが可能な社会なのである。

現在、参議院で「土地利用規制法」が審議されているが、「土地利用規制法」のゆきつくところは、この法律案が規定するところだということを忘れてはならないだろう。