AIと商業主義


最近、AIという言葉が使われない日はないと言ってよい。たんなる電話の合成音声による応答システムも、駅の案内用ロボットも、果ては単純な電気家具までがAIを内蔵していると主張しています。

しかし、そのほとんどはAIとは無関係なものです。このようにAIという用語を乱用するのは、商業主義によるものであり、AI技術をますます国民から縁遠いものにしてしまうでしょう。

このような、安易な技術用語の氾濫について考えます。




1 AIに便乗する“技術”たち

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筆者:平児

日本をひとつの妖怪が彷徨している。AIという妖怪である。

最近の報道を観ていると、そう言いたくもなろうと言うものだ。AIという言葉が使われない日はないと言ってよい。たんなる電話の合成音声による応答システムも、駅の案内用ロボットも、果ては単純な電気家具までがAIを内蔵していると主張している。

だが、本来AIとは、「自ら学習することで柔軟に出力を変化させる自立したシステム」のことである。AIが用いられているとされているほとんどの製品は、AIなどとは無関係なものなのだ。

AIについて、具体的な例を挙げれば、例えば経験によって差し手を変化させる将棋のソフトなどである。

AIが使われている、AIが使われていると騒いでいるマスコミも、どこにAIが用いられているのかを説明しているものは、まず皆無と言ってよい。これでは、フェイクだと言われても仕方がないだろう。少なくとも、「高度電子技術」や「情報処理技術」とAIの区別がついておらずに言っているとしか思えないのである。


2 過去にも同じような例が・・・

(1)マイコン内蔵って何?

平児が生まれる20年程前のことだが、パソコンの黎明期にも同様なことがあったと私の師匠(「実務家のための労働安全衛生のサイト」というサイトを運営している人)が言っていた。

空調機や冷蔵庫、電気釜から掃除機までが、「マイコン内蔵」と銘打っていた時代があったそうだ。マイコンとは、初期のパソコンの名称だが、ここで言うマイコン内蔵のマイコンとはそういう意味ではない。マイコンチップ(集積回路)を内蔵しているという意味だ。

しかし、私の師匠に言わせると、プログラミングができないものは、マイコン内蔵などと言うべきではないということだ。ほとんどの「マイコン内蔵」製品は、たんにメモリと演算装置を搭載しているだけで、たんなるシーケンス制御をしているだけだったらしい。


(2)お次はファジー制御ときた

そして、これは平児が生まれる6年前だが、「ファジー」という言葉が流行語大賞に選ばれたことがあったそうだ。このときもありとあらゆる電気製品が「ファジー制御」をしていたという。もっとも、このときは、悪乗りしているという自覚があってやっていたらしい。

しかし、ファジーとはどのようなもので、それをどのように製品に活かし、それによってどのような効果がるかを科学的に説明している商品は皆無だったという。

まあ、流行っていれば、売るためにはそれに乗っからざるを得ないんだろう。平児も、ここまでは優しく見てあげたいと思わなくもない。


(3)さらには、「マイナスイオン」と「ナノ」

また、私が子供の頃、空調気が「マイナスイオン」を売りにしていたのを、かすかに覚えている。これは、完全な“似非科学”である。健康に役立つなんて誰も信じていないものを、健康に役立つと言って売っていたのだ。

それも大手電機メーカが、こういう詐欺的な商法に手を染めていたのだから呆れる。我が国の製造業メーカには良識はないのかと言いたくなるのがこれだ。これは、ちょっと許せないという気がする。

一方、ナノテクノロジーは、まともな科学技術だが、これも便乗した製品が売られていた。洗剤でナノを売りにしたものがあるのだが、やや眉唾としか言いようがない。


3 イメージ商法は悪質なものというべきだ

結局、我が国の製造メーカは、イメージで製品を売ろうとする傾向が強いようだ。科学的に自社製品の有利さを訴えるのではなく、イメージで消費者をだまそうとしているのだと言ってもよい。

プログラミングもできないような製品を「マイコン内蔵」と銘打ったり、悪乗りしていると自覚していながら「ファジー」を売りにしたり、似非科学だと知りつつ「マイナスイオン」を健康に良いと言って製品を売ったり、まともな商道徳とは言えないことが繰り返し行われているのである。

現在のAIもこれと同じようなものなのだろう。AI技術の発展にとっても、決して良いことではないだろう。「ファジー」と同じ運命をAIがたどるのは悲しい。