志布志市の女性差別動画


志布志市が、ふるさと納税のPRのために配信した動画が、女性差別であるとしてネット上で批判を浴びました。

これは国際的にもフランスのAFP通信、英国のガーディアンやBBCも批判的に取り上げています。

本件の問題は、志布志市がなぜ批判を受けているかを理解していないように見えることです。




1 最初に

執筆日時:

最終修正:

筆者:柳川

テレビ画面

※ 志布志市YouTube動画画面より

志布志市がふるさと納税のPRのために配信した動画が、女性差別であるとしてネット上で批判を浴びた例がある。これは国際的にもフランスのAFP通信、英国のガーディアンやBBCも批判的に取り上げている。日本人に対する誤解を助長するおそれがあるばかりか、"国辱問題"といってよいような様相を帯びている。ある意味で、一地方自治体の問題ではなく、国家の利益を損なったともいうべき事件なのだ。

動画の内容は、水着姿の若い女性がカメラに向かって「(自分を)養って」と呼びかけ、その後はプールで楽しそうに生活し、最後にカメラに向かって寂しそうに幽かに微笑んで「さよなら」と言ってプールに飛び込むと、女性の姿がウナギに変わり、直後にウナギのかば焼きのシーンが出てくるというものである。そのあと子供と思われるような別な女性が画面に現れ、カメラに「養って」と呼びかけて終わる。


2 問題点

(1)女性を「モノ」扱いする問題

内容から離れてみれば、女優の演技力や、演出、カメラワークや照明などはかなり優れたもので、コストをかけて丁寧に作っているのだろうなとは思う。

しかし、どうひいき目に見ても、シナリオや製作者の趣味が良いとは言い難いのではなかろうか。制作者が視聴者に対してカニバリズムを想起させようとしているようにも感じられ、いささか気味が悪い(※)

※ 本文でも述べたが、演じている女優を揶揄する趣旨ではない。内容から離れて、演技力という観点でみれば、大変に演技力のある有望な女優であると、私は感じたということをお断りしておく。

女性を「食物」扱いしているわけであるから、女性差別と批判されても仕方がないだろう。それどころか、この動画の場合、下手をすれば未成年者略取誘拐などの犯罪を助長するおそれさえあるのではなかろうか。批判を浴びたのは当然と言えよう。


(2)組織の問題があるのではないか

この問題で特徴的なのは、地方自治体という公的な"組織体"が起こした問題だということだ。J-CASTニュースによるとこの地方自治体では「批判が上がることは『予期していなかった』」ということである。

しかし、ふるさと納税という地方自治体にとって重要なPRのための動画であり、また動画の作成にはかなりのコストが必要なのである。企画から、最終的な内容の決定、実際の撮影まで、自治体内でもかなりの職員が関わっていたと思われる。その中には女性もいたはずである。

また地方自治体には、差別問題に詳しい職員が配置されているのが普通である。それらの職員であれば、女性を「物」扱いしたり、「動物」扱いしたりするのは、差別問題に発展することがある(※)ので、注意する必要があるということは分かっていたであろう。

※ もちろん、物や動物を女性に対して擬人化することが、すべて悪いなどということではない。ただ、注意しないと、女性への差別意識を助長することがあり、また、そこまでいかなくても見る側に不快感を与えることがあるので、注意しなければならないジャンルなのである。昔、お歳暮などの時期になると、女性を包装紙で包んだ写真をデパートが広告に使うことがあったが、最近ではその種の広告が出ることは考えられない。二重三重のチェックで、そのような企画ははじかれてしまうのである。このようなことは出版業界や地方自治体にとっては常識だと思うのだが。

このような動画が組織内でチェックされずに、外部に出てしまったということであれば、この地方自治体では組織の在り方まで遡って見直す必要があるのではなかろうか。女性職員ばかりではなく、不快に感じた職員も多かったのではなかろうか。そのような声が反映されない硬直した組織になっているおそれがあるのだ。


(3)真摯な反省も再発防止の意欲も感じられない

安藤健二氏(※)によると、この地方自治体の職員へのインタヴューで、ある職員は「女性からの批判的な意見も一部では出ましたが、担当部署の総合的な判断で掲載を決めました」と答えたそうである。女性のいうことなど聞く必要はないなどと思っているから、このような事件を起こしたのだと評価するのはうがちすぎだろうか。

※ 2016年9月26日HUFFPOST「水着少女が『養って』 志布志市のPR動画『少女U』が削除された理由は?

また、毎日新聞(※)によると、「市は『ウナギを心を込めて大事に育てていることを表現したつもりだったが、ここまで批判が殺到するとは思ってもいなかった。不愉快な思いをされた人たちには大変申し訳なく思っている』と謝罪した」とある。どこに問題があって、どうすればこのような事件を防げたのかを真摯に考えるということではないようだ。批判を受けたから削除して謝っておけばよいということなのであろう。これでは、また同種の事件を繰り返すのではないかという気がしないでもない。

※ 2016年9月26日 毎日新聞「PR動画で水着の少女登場 「卑わいだ」で削除

一方、日刊ゲンダイ(※)によると、地方自治体の職員は「抗議の電話は全国からかかり、その9割が女性。声の感じから、多くが年配女性だった」と答えたそうである。このような発言から、この地方自治体の職員の年配の女性に対する偏見を読み取ろうというのは無理があるかもしれないし、取材者から尋ねられたので答えただけかもしれない。しかし、その職員だけですべての抗議を受けたわけではあるまい。抗議者の所在は全国で、9割が女性で年配者が多いなどという資料を誰かが作ったのであろう。どのようにして何の意図でそのような資料を作成したのか、やや気になる発言である。

※ 2016年9月29日 日刊ゲンダイ「性差別? 猛抗議で姿消した志布志の『うなぎ少女』動画


3 最後に

以前、ある食品メーカーが女性を乳牛にみたてた広告動画を作成して批判を浴びたことがあった。広報に携わる職員ならそのような事例は知っておくべきである。先人の失敗事例は貴重な財産なのである。このような事例を組織内で共有しておけば、このような事件は防げた可能性があるのだ。

個人の場合であっても、差別についての感性を、普段から磨いておく必要があると感じさせる事件である。