八木秀次氏の差別発言


麗澤大学の八木秀次教授が、世日クラブの定期講演会で「最新の研究によると、家庭内での虐待など環境的要因説が有力で、精神療法で治癒できるケースも多い」と非科学的な発言をしています。

これが1学者の発言であればともかく、八木教授は法制審議会民法(相続関係)部会の委員であり、看過することはできません。なお、世日クラブは世界日報(発行者:家庭連合/旧・統一協会)の読者でつくる組織です。

このような人物を法制審議会の民法部会の委員としている自民党・公明党政権の問題が浮きぼりとなっています。




1 八木秀次教授による非科学的な差別発言

執筆日時:

筆者:平児

麗澤大学の八木秀次教授が、世日クラブの定期講演会で6月19日に「家庭破壊から国家社会の解体へ~同性婚訴訟の意味するもの~」と題してとんでもない非科学的な主張をしておられる。講演会の主催者の世日クラブの世日とは「世界日報」の略で、世界平和統一家庭連合(旧称:世界基督教統一神霊協会=統一協会)(※)が発行する世界日報の読者会である。

※ 家庭連合(統一協会)とは、詐欺的な霊感商法や、合同結婚式などで知られるカルト集団である。なお、自民党・公明党政権との関係は、日刊ゲンダイ「日本会議系に統一教会系…安倍新内閣はまるで“カルト内閣”」が参考になる。

右派のネット報道機関のViewpointが2度にわたって、八木教授の後援を紹介している。これによると、講演において同教授は、次のように主張されているようだ。

【八木教授の主張のViewpointによる紹介】

① 3月17日の札幌地裁の判決内容に見られる同性愛と婚姻の認識に言及。判決では同性愛を「人生の初期か出生前に決定」「意思により変えられるものでもない」としているが、最新の研究によると、家庭内での虐待など環境的要因説が有力で、精神療法で治癒できるケースも多いと指摘した。

② 自民党総務会で了承が見送られたLGBT(性的少数者)理解増進法案の問題点についても解説を行った。「すべての性的指向を完全に平等なものとして取り扱わなければ差別になるという趣旨が埋め込まれている」と問題点を指摘。「LGBT団体の主張に合うきれい事だけが言論空間に流布し、それと違うことを言えば、差別主義者のレッテルを貼られてしまう」と警鐘を鳴らした。

※ Viewpoint 2021年6月20日「同性婚判決の婚姻認識は一面的 麗澤大学教授 八木秀次氏が講演」より。引用者において、一部を抽出し箇条書きとした。

また、Viewpointによると、八木教授は次のように主張されている。

【八木教授の主張のViewpointによる要約】

③ 日本ではほとんど紹介されないが、特に英語圏では研究が進んでいて、同性愛は先天的ではないという見解が有力とされてきている。

④ 同性愛の遺伝について調べたある研究では、一卵性の双子が両方とも同性愛者である比率は10%前後だった。つまり、約9割の双子は片方が同性愛者でも、もう一人は異性愛者ということだ。もし同性愛が遺伝するものなら、一卵性双生児は性的指向が一致しなければならない。

⑤ 米国の精神科医ロバート・スピッツァー氏は2011年、同性愛の傾向を抱えていたとしても、「異性愛者としての機能を十分回復できる」という見解を出している。実はスピッツァー氏は1973年、米国の精神疾患のリストから同性愛を削除する決定をした人物だった。研究の結果、自らの見解を改めたことになる。

⑥ しかも、LGBTの「T」を表す性同一性障害もまた、先天的なものではないという研究もある。ニュージーランドの遺伝学者であるN・E・ホワイトヘッド氏によると、70人の性同一性障害者の調査で、本人には何ら身体的異常は見つからなかった。しかし、母親の80%、父親の45%がさまざまな精神病を患っていた。生理的原因説は根拠が乏しく、心理的原因の可能性が高いというわけだ。

※ Viewpoint 2021年6月25日「家庭破壊から国家社会の解体へ」より。引用者において、一部を抽出し箇条書きとした。

八木氏の主張は、要約ということもあるのかもしれないが、上記の③にみるようにほとんど根拠らしい根拠が示されていない。あえて拾い出せば、④~⑥だけは根拠のごときものが示されている。


2 八木氏の主張の問題点


(1)LGBTの原因に対する戯言

以下、八木氏の主張の問題点を論述しよう。まず、①及び③についてであるが、LGBTについて「家庭内での虐待など環境的要因説が有力で、精神療法で治癒できるケースも多い」と主張している。

しかしながら、そもそも、同性愛については、ICD-10においてすでに治療すべき疾病とは位置付けられていない(※)

※ 椎野信雄「Homosexuality をめぐって〜ホモセクシュアルが病気でなくなるまで〜」(文教大学国際学部紀要 第27 巻2 号 2017年)など参照

また、その原因については分かっていないことが多い。BBCは、ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドン遺伝子研究所のデイヴィッド・カーティス名誉教授の「同性愛者になるかどうかは遺伝子で決まるものではない。それと同時に、同性愛の性的指向は、個人が生来の人格として持って生まれる不可分の部分だということは、否定されない(※)という言葉を紹介している。

※ BBC NEWS JAPAN 2019年8月30日「「ゲイ遺伝子」は存在しない、米ハーヴァード大などの研究で明らかに」(文教大学国際学部紀要 第27 巻2 号 2017年)など参照

八木教授は、「家庭内での虐待など環境的要因説が有力」と言っておられるが、根拠も示されていない。いったい、いつこのような主張が有力になったのであろうか。怪しげな主張と言うべきである。

これは、トランスジェンダーについても同様で、DSM-5では性別違和、ICD-11では性別不合と呼ばれ、そもそもシスジェンダーに変える方向で治療すべき「精神疾患」とは捉えられていない(※)

※ 身体的治療としては、ホルモン療法、乳房切除、性別適合手術等がある。例えば、永野健太他「性の多様性,性同一性障害について」(九州神経精神医学,第64巻,第3~4号 2018年)など参照。


(2)LGBT理解増進法について

②のLGBT理解増進法案については、そもそも同法案は差別禁止を理念として挙げているだけであり、きわめて不十分な内容である。

ところが、八木教授は、この法案が「すべての性的指向を完全に平等なものとして取り扱わなければ差別になるという趣旨が埋め込まれている」ように読めるらしい。何が言いたいのかよく分からない文章だが、法案を読めばわかるように、たんなる妄想にすぎない。

八木教授にとって、差別を禁止されるということは、よほど耐えられないものだということであろうか。


(3)双子研究をめぐる無意味な主張

④の双子研究に関する氏の主張は、ほとんど意味がないものである。まず、そもそも同性愛が遺伝によるものかどうかということと、先天的なものかということは完全には結びつかない。同性愛が遺伝によらなかったとしても、先天的なものということはあり得る。それが環境によるとは限らないのである。

この「一卵性の双子が両方とも同性愛者である比率は10%前後だった」というのも分母が書かれていないので意味不明だが、一卵性双生児で一方が同性愛のとき、もう一方が同性愛になる比率は10%前後だと言いたいのであろう。だとすると、八木氏は一卵性双生児以外でも同性愛者が10%前後いるという我々の主張を認められておられるのだろうか。仮に、一卵性双生児以外の同性愛の出現率が10%よりも低く、この研究結果に対して統計的に優位だと仮定すれば、これは遺伝子が関わっているという証拠になるだろう。

また、「もし同性愛が遺伝するものなら、一卵性双生児は性的指向が一致しなければならない」という主張は、八木氏に遺伝学に関する基本的な知識が欠けていると推測させる。一致する必要はない。統計的に優位であれば十分なのである。

なお、双生児研究では、男女とも一卵性での同性愛の生起率が約50%で、二卵性や双子以外の兄弟、養子兄弟よりも優位に高いことから、同性愛には遺伝的要素があると結論付けた有名な報告がある(※)

※ Bailey, J.M, & Pillard, R.C.「A genetic study of male sexual orientation」(Archives of General Psychiatry, 48,1991年)参照。


(4)ロバート・スピッツァー氏の主張について

⑤のロバート・スピッツァー氏に関する八木教授の主張に反論するには、WIREDの次の記事を紹介しておくだけで十分だろう。ロバート・スピッツァー氏は2012年に自らの考えを改めているのである。

【ロバート・スピッツァー氏の考えの反省】

カリフォルニア州の決定は、おそらく何かが変わりつつあるしるしだ。そしてひとつだけではない。アメリカの精神科医ロバート・シュピッツァーは、同性愛「回復療法」の旗手のひとりだったが、 数カ月前に誤りを認めた。

「わたしは自分の研究についてゲイ・コミュニティに許しを請わなければならない。とりわけ、治療の有効性が証明されなかったことが理由である。治療によって時間とエネルギーを浪費したホモセクシュアルの人々にも謝罪したい」

彼は性科学学術誌『Archives of Sexual Behavior』に掲載される予定の手紙でこのように書いた。彼が2001年に「回復療法」についての衝撃的な研究を発表したのと同じ雑誌だ。アラン・チェンバースまでが、すべて間違っていたことを認めた。彼は、治療されたとされる元ゲイの人々の協会であるExodus Internationalの会長だ。

※ WIRED 2012年10月16日「同性愛者を転向させる必要はあるのか?」より。

八木氏は、「精神科医ロバート・スピッツァー氏は2011年、同性愛の傾向を抱えていたとしても、『異性愛者としての機能を十分回復できる』という見解を出している」と述べ、「研究の結果、自らの見解を改めたことになる」とまで言っておられる。

しかし、このWIREDの記事をよくご覧になって頂きたい。記事は2012年10月のもので、スピッツァー氏は数か月前に誤りを認めたと言っている。


(5)八木氏の最後の頼りN・E・ホワイトヘッド氏の主張について

さて、八木教授の最後の頼りは、N・E・ホワイトヘッド氏である。ホワイトヘッド氏は八木教授によれば「遺伝学者」なのだそうだ。しかし、現実にはやや怪しげな人物である。こんな人物の主張を持ち出さなければならないほど、八木教授の主張には根拠が薄いのである。

八木教授によれば、「N・E・ホワイトヘッド氏によると、70人の性同一性障害者の調査で、本人には何ら身体的異常は見つからなかった。しかし、母親の80%、父親の45%がさまざまな精神病を患っていた」という。あまりにもばかばかしい、差別と偏見に満ちた論述である。

トランスジェンダーの両親が「精神病を患っていた」というが、対象群の数字が示されていない。さらに、「精神病」が何を意味するのかも不明である。このような主張をするなら、まずその根拠となる論文を示すべきであろう。

根拠も示さずにこのような主張をされる以上、トランスジェンダーに対する差別と偏見、さらには「精神病」に対する偏見と差別、そして、その子供たちに対する差別と偏見を広めるレイシストというより他はないだろう。


3 八木教授を法制審議会の民法部会の委員に据える政権

八木教授は、安倍前総理の熱心な支持者の一人である。雑誌「正論」に安倍氏を支持する立場からの天皇の批判記事(※1)を書いたり、「世界日報」に札幌地裁の違憲判決に関する批判見解(※2)を寄せている人物である。

※1 天皇の「戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました」という発言について、八木教授は「正論」2014年5月号に、「両陛下のご発言が、安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない」と記している。

※2 世界日報2021年3月18日「「婚姻」はき違えた判決、麗澤大学教授(憲法)八木秀次氏の話を書いている。

それはともかく、八木教授は、本項に見るように、LGBTに対して、現代の医学の進歩に背反する差別的な偏見を持っておられ、それを表明している人物である。このような人物を、菅自民党・公明党政権は、法制審議会の民法部会の委員に据えているということは、この政権の本質を如実に表している。

審議会は、専門家の意見を聴くための諮問機関であるというのが建前だが、現実には、国事行為や法案作成についてかなりの影響力を有する組織である。もちろん、各界の意見を聴くという観点から、有力組織の歴代表が入ることもあり、ときには政権に批判的な委員が選ばれることもある。

ただ、委員長や有力な委員には、政府の意向に従う委員が選定されていることは常識である。委員会の委員は選挙で選ばれるわけではなく、行政機関が自由に選ぶことができるのである。

自民党と公明党の真の考え方、政治思想は、この八木教授と同じようなものなのであろう。自民党、公明党を支持する「学者」にロクな人物はいないと思うのは私だけであろうか。


4 最後に

なお、この記事を書くに当たって、以下のツイートを参考にした。