松浦大悟氏によるフェイク


松浦大悟氏が、新潮45の杉田水脈議員を擁護する文章において、4野党共同提出の「LGBT差別解消法案」を批判しています。

その内容たるや、条文を参照すれば直ちに嘘と分かるような、レベルの低いフェイクの羅列にすぎません。

松浦大悟氏は元国会議員ですから、自らの言っていることが嘘であることを自覚しているものと考えるのが自然です。松浦氏の卑劣な嘘を明らかにします。




1 はじめに

執筆日時:

最終修正:

筆者:柳川


(1)松浦大悟氏の杉田議員擁護が止まらない

杉田議員が新潮45の8月号にLGBTを差別する文書を寄稿したことについて、LGBT当事者以外の斯界の有識者からも批判を浴びており、この原稿の最初の執筆時点である2018年10月6日に至ってもその嵐が収まってはいなかった。

そのような中、ゲイであることをカミングアウトしておられる松浦大悟氏が、同誌の10月号の特集「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」に寄稿して杉田議員を擁護され、その一方で杉田議員を批判しているLGBTではない人々に対しては強い調子で批判をされた。

このように述べると、事情を知らない方は、何かの間違いではないかと思われるかもしれない。LGBT当事者である松浦氏が、杉田議員のLGBTを差別する文書を擁護し、杉田議員への批判派に対する防波堤となっているのである。

しかし、この寄稿の項目を見てみると、松浦氏の寄稿を書いた意図が見えてくる。それは次のようになっているのだ。

【新潮45の10月号の松浦氏の記事の項目】

  • 杉田論文をどう読むか
  • リベラルが利用するLGBT
  • 危ない野党のLGBT法案
  • LGBTは強い国家を作る

※ 松浦大悟「特権ではなく『フェアな社会を望む』」(新潮45特集「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」)より作成

すなわち、肝心の杉田議員の擁護の部分は最初の1項目だけで、次の2項目はLGBT差別解消運動への批判である。そして、最後の1項目は分かりやすく言えば「LGBTの多数派は安倍総理や杉田議員の考え方(右翼思想)と一致している」という主張なのである。

松浦氏は、LGBT以外の人々が行っている差別を解消するための行動について、"リベラルが利用するLGBT"などと批判している。さらに、かつて野党4党が国会に共同提出したLGBT差別解消法案(※)を明らかな事実に反して攻撃をするなど、LGBT差別解消の運動を妨害しておられるのである。

※ 第190国会に民進党・共産党・社民党・生活の党と山本太郎となかまたちによって提出されたが、会期終了をもって継続審議となった。

この寄稿は、松浦氏から安倍総理や杉田議員へ向けた政治的なラブコールというべきものといえよう。


(2)松浦大悟氏とは(常に勢いのある勢力に繋がる経歴)

松浦氏は、もともとは2007年に民主党が勢いのあったとき、民主党と社民党の推薦を受けて参議院議員となった革新系の政治家である。翌2008年には社民党から離れて民主党へ入党し、民主党内で地歩を固めてゆく。しかし、民主党が凋落する中で2013年の参院選ではあえなく落選した。

2016年の参院選には民主党に所属したままで、共産、社民両党と政策協定に署名し、野党統一候補として出馬したが落選した。その後、政界を引退すると表明して民主党を離党している。

ところが、2017年になると、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いのあった小池新党から衆院選への出馬を希望するのである。そして、松浦氏は、小池知事の眼鏡にかない、秋田1区から出馬した。当時、小池知事は「安全保障、憲法観といった根幹で一致していることが政党の構成員として必要最低限だ」と述べておられた。すなわち、松浦氏は自らの政治的な立場を大きく変更したのである。

このとき、産経新聞から「希望の党・秋田1区の松浦大悟氏は『安保法廃止』だった 昨夏の参院選で共産、社民と共闘」(※)という記事で、名指しで揶揄されている。

※ 2017年10月3日付け産経新聞記事

しかし小池知事の「排除」発言などが問題となり、選挙の時点ではすでに希望の党の勢いが衰えてしまったのである。結局、松浦氏は小選挙区で落選し、比例復活もならなかったのである。


(3)杉田議員による差別への批判を、松浦氏が攻撃

さて、先ほども述べたが、松浦氏は、杉田議員の8月号の寄稿に対してではなく、逆にその寄稿への抗議活動に対して強い調子で不快感を表明している。

【2018年10月2日朝日新聞記事より】

LGBTを含む性的少数者の多くは、新潮45たたきを白けて見ていたのではないでしょうか。ゲイである私は、当事者の頭越しに、当事者ではない人たちが激高している姿を見て、「最近まで同性愛者を気持ち悪いと言っていたくせに」と思いました。

※ 朝日新聞2018年10月2日「『共感広げる体力、論壇は失った』 松浦大悟さん

【2018年10月2日ガセット通信記事より】

――実際、LGBT差別を助長しているとして批判が巻き起こりましたが、当事者の温度感をどう捉えていますか?

松浦:当事者の皆さんは距離を置いて見ているように思います。当事者の頭を超えてストレートの人たちが激しい怒りを表明していることには「どの口が言っているんだよ」と。ついこの前まで同性愛者のことを「気持ち悪いと差別していたじゃないか」と。そうしたマジョリティの調子の良さに複雑な思いを抱いている人は少なくありません。杉田議員への批判はいい。だけど、杉田議員の姿はかつての「あなた」です。

ここにいう「ストレート(※)の人たち」が具体的に誰を指すのかは分からないが、少なくとも私の周囲にいる異性愛者やシスジェンダーで、杉田議員に対する抗議を表明する人たちは、若いころから人権問題に関心を持っておられる方ばかりであり、同性愛者に対して差別的な言動をしたことなどない人ばかりであると言い切っておく。これは私自身についても同じである。

※ ここではストレートとは異性愛者を指す言葉である。また、シスジェンダーとは、生まれたときに割り当てられた性と、本人の自認する性が一致していることである。

また、著名な方たちで、顕名で杉田議員の寄稿に批判をしている方々の中にも、「ついこの前まで同性愛者のことを気持ち悪いと差別していた」ような人がいるとは、私には思えない。松浦氏の言われる「あなた」とは誰のことなのか、またいつ差別的な言動をしたというのか、ぜひ明確にして頂きたい。

それができないというのであれば、自分はこれらの批判派とは違うということを、"誰か"にアピールしたいだけなのだと思われても仕方がないのではなかろうか。

さらに言えば、杉田議員の差別発言は、LGBTの方だけの問題ではない。「LGBT以外の者は批判するな」とは、果たしてどのような目的で言っておられるのであろうか?


(4)杉田議員は差別者ではないと擁護

杉田議員への批判派に対しては強く批判する一方で、杉田議員に対しては、あくまでも擁護の姿勢をとっておられる。「杉田氏のような発言をする人を、私は差別主義者だとは思いません」と明確に言い切っておられるのである。

【2018年10月2日朝日新聞記事より】

杉田氏のような発言をする人を、私は差別主義者だとは思いません。情報不足による発言だからです。「差別だ」と言う人も、その対象は昔のあなたの姿ではないか、顧みて下さい。

※ 朝日新聞2018年10月2日「『共感広げる体力、論壇は失った』 松浦大悟さん

冗談ではない。情報不足だから差別者ではないなどと言い出したら、どんな差別も許されることになってしまうだろう。確かに、どんな誤った発言も、その原因は情報不足には違いないからである。

しかも、相手は国会議員なのだ。国民の血税から3人分の政策秘書の経費が支給されているのである。さらに、様ざまな活動費や政党補助金など莫大な手当てを税金から受けているのだ。

それで、いったいどんな情報が不足するというのか。正しい情報を得るために、国民の血税から手当てを受けているのであろう。正しい情報を得るのは、国会議員の義務ではないか。この松浦氏の主張は、51歳の杉田議員に向かって「まだ若いんだから」と言って不問に付した安倍総理よりも悪質だというべきである。

さらに、杉田議員の新潮45の8月号の寄稿から、どれだけ時間が経っていると思っているのだ。その間、杉田氏への寄稿に対して溢れるような批判が浴びせられている。情報を得ようと思えば、調べるための時間はいくらでもあるだろう。そのために国税で賄われている政策秘書も3人もいるのではないか。

にもかかわらず、松浦氏は、その杉田議員を批判する国民の側に向かって、「その対象はむかしのあなただ」と悪罵を投げつけている。結局のところ、松浦氏は杉田議員の側に立って、国民に対して差別をする側になっているのである。


(5)杉田議員の思想と、松浦氏の思想の親和性

それとも、松浦氏の言う、杉田議員がLGBTの差別をしなくなるために不足している情報とは、よほど得にくいものなのだろうか。この"不足している情報"とは何かについて、松浦氏は新潮45の10月号で次のように述べている。

【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】

(前略)そして私たちが驚いたのが「LGBTは強い国家を作る」という実践です。米国には各地にLGBTセンターがあるのですが、そこには米軍がリクルートするためブースを出しているのです。2010年、オバマ大統領は同性愛者の米軍入隊禁止規定の廃止案に署名。これによって同性愛だと公言して軍隊に入ることが可能になりました。「国家が俺たちのことを認めてくれた。今度は俺たちが国家に貢献する番だ」と、当時ブースの前にはゲイの若者が列をなしたそうです。国家が包摂することで愛国心が生まれ、結束力のある強い国家を作ることに繋がるという考え方は、我が国の保守の皆さんにも十分共感していただけるのではないでしょうか。

冗談ではない。LGBTは国に協力するから差別しないでくれなどというのは、政府の考え方に協力しないLGBTは差別してもよいということに他ならない。

そもそも政府や国会議員は、政府に批判的な国民を、政府に批判的だからという理由で差別するような発言をしてよいわけがないのである。このような情報を提供すれば差別はなくなるというのは、根本的に思想が誤っている。

杉田議員の差別発言(というより差別思想)を"情報不足"に矮小化する松浦議員の発言は度し難いものがある。


(6)松浦氏は、杉田議員との対談を熱望

ア なぜ杉田議員との対談を望むのか

しかも、松浦氏の寄稿のこの部分は、ある意味で驚くべきものであるといえよう。先ほど紹介した産経新聞の記事でも分かるように、松浦氏は、かつては「9条改正反対」「安保法反対」「自衛隊の海外派兵反対」と明確に主張していたのである。

すでに希望の党から出馬した時点で、宗旨替えしていたのではあろうが、ここで主張していることは、かつてのリベラルだった松浦氏とは全く逆の理念である。

これはどういうことなのだろうか。その答えは、松浦氏が次に述べるように、杉田議員に対して対談を切望しておられるその理由にあるのかもしれない。

【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】

私は杉田議員と胸襟を開いて議論したい。そして杉田議員にはLGBTの味方になってもらいたい。ぜひ本音の対談が実現するよう願っています。

松浦氏は、過去の経歴を見る限りでは、民主党、希望の党と、そのときそのときで勢いのある政党に強い親和性があり、その都度、政治家としての思想の基本的な部分をあっさりと宗旨替えしてきた人物なのである。そして、現在は安倍1強の時代である。その安倍氏の秘蔵っ子である杉田議員と対談をされたいというのも、その理由は想像がつくというものだろう。

イ 杉田議員の側の反応は?

杉田議員の立場になって考えてみよう。現在の状況から考えれば、松浦氏からの対談の申し入れはきわめてありがたいはずである。なにしろ松浦氏はLGBTの当事者で、しかも杉田議員は差別者ではないと言い切っておられるのだ。うまくいけば、自分はLGBTに対する差別意識はないとアピールする千載一遇のチャンスであろう。しかも、松浦氏を通して、LGBTの保守層の支持を得られるかもしれないのである。

しかし、杉田議員はとんでもない戦前懐古思想の持ち主であるが、松浦氏とは違って、若いころから(安倍総理によれば今も若いらしいが)思想的にはブレたことはない(※)。もちろん松浦氏の場合と違って、それが問題なのだが・・・。

※ 所属政党が次々に変わっているという意味で、変節漢であることに変わりはない。かつて杉田議員が所属していた維新の会の橋下氏は、杉田議員を「日本で一番生産性がないのはお前だ」と批判しておられる。私は橋下氏を信用していないが、杉田氏を見る目は確かなようだ。

結局、松浦氏の対談の申し入れは、今に至るも杉田議員から相手にされていない。結局のところ、信用されていないか、わざわざ合うほどの人物だと認められていないということなのであろう。


(7)松浦氏は、LGBT差別解消の運動を妨害している

松浦氏が、かつては左派の立場で、現在は杉田議員の思想と同じ立場へ宗旨替えしたとしても、それについてあれこれいうつもりはない。そもそも、骨幹的な政治思想を逆転させるようでは、松浦氏にとって、政治思想などは政治家になるための手段にすぎないのだろう。あるいは、今まで心にもないことを言って国民をだましていたのかもしれない。こんな人物を相手に変節を批判してみてもしかたがないだろう。

しかしながら、LGBTの差別解消のための運動に対して、妨害をするかのような言動をするというのはやはり見過ごすわけにはいかない。

ア 非LGBTの方による差別批判への筋違いな攻撃

冒頭に挙げたように、松浦氏は、非LGBTの方に対して、杉田氏の差別的な言動に対して抗議をするなと述べておられる。しかし、これはどう考えても杉田議員に対する阿りとしか私には思えない。LGBTとそれ以外の方の差別をなくそうというときに、その一方だけがかかわっていて差別がなくなるわけがないであろう。

人権侵害問題が起きたときに、当事者以外の者が誰も発言しないとすれば、そのような社会こそ病的だというべきであろう。松浦氏はそのような社会がよいと言われるのであるのであろうか。

イ LGBT差別解消運動を保守的なものへ変質させようと努力

また、新潮45の杉田氏を擁護した論述でも、わざわざひとつの項を起こしてリベラルがLGBTを利用していると非難しておられる。要するにLGBTとリベラルの間を割こうとしておられるのであろう。

しかし、差別の問題は、政治思想や右とか左とかに関わりなく。広い範囲の人々の理解がなければ実現しないのである。

要は、松浦氏は、LGBTの差別解消の運動を、安倍総理や杉田議員に気に入られるように変質させ、力を削ごうと画策しておられるだけというべきであろう。


2 松浦氏のLGBT差別解消法案批判へのファクトチェック

(1)LGBT差別解消のための法案とは

ア 松浦氏の寄稿の他の部分で事実に反している箇所

松浦氏の新潮45の寄稿の内容の多くが、事実に反しているということは、永易至文氏がBuzzFeedによせた寄稿「『新潮45』で高評価だった『松浦大悟論文』をファクトチェックしてみた」に詳細に記されているので、ここで繰り返すことはしない。なお、公平のために、永易氏が松浦氏の論考を高く評価しているということは付記しておこう。

本稿では、松浦氏が批判しているLGBT差別解消法について、やや詳細に記しておきたい。

イ 3つのLGBT差別解消のための法案

LGBT差別解消のための立法の動きは、松浦氏がこの文章を書いた時点では、次に示すように3種あったといってよいだろう。

① LGBT理解増進法案  自民党による。式名称は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」である。2021年5月の時点では、自民党の特命委員会で成分が作られ、野党にも内容が示されて議論が進められている。しかし、松浦氏が文章を書いた時点では成文は未作成であった。

② LGBT差別解消法   松浦氏が文書を書いた時点で、野党4党によって国会に提出されたが継続審議となっている。

③ LGBT差別禁止法   LGBT法連合会によって公表されている

松浦氏は、野党4党案を批判し、当時は成案が存在していなかった自民党案を絶賛しておられる。なお、野党4党によるものは前にも述べたが、民進党・共産党・社民党・生活の党と山本太郎となかまたちの共同提案である。


(2)松浦氏のLGBT差別解消法案に対する虚偽

LGBT差別解消法案は正確には「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」であり、本文39ヵ条、附則12ヵ条と、それほど長いものではない。

これに対して、松浦氏は内容を熟知しておられるはずだが、とんでもない虚偽の主張をしておられるのである。やや長いが、全文、引用し、その後で詳細な批判を加えよう。なお、番号は引用者において付した。

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

危ない野党のLGBT法案

  • ① 杉田発言を受けて、野党は「改めてLGBT差別解消法を成立させなければならない」と意気込んでいます。現在国政では自民党案と野党案の二つのLGBT法案が議論されており、月刊G-menの元編集長の冨田格氏はその特徴を次のようにまとめています。
  • ② 《野党4党が提出した「LGBT差別解消法案」は、性的少数者への差別だとみなされる自治体や企業に対して、罰則規定を設けて差別を解消していくことを目指しています。
  • ③ 自民党の特命委員会で検討している「理解増進法」は、人権教育や人権啓発などを通じて性的少数者への理解を深めていくことで、「知らないが故に生まれてしまう差別的在感情」を減らしていくことを目指しています。
  • ④ どちらの法案も、性的少数者の人権を守るために考えられたものですが、その方向性やアプローチの仕方は大きく違います。》
  • ⑤ 自民党案も野党案もLGBTへの良心から作られたことは間違いありません。しかし私は、この野党が掲げるLGBT差別解消法案には見逃すことのできない問題が内包されていると感じています。
  • ⑥ 野党案では、 行政機関および事業者は性的少数者が差別だと感じる社会的障壁を除去しなければならないとして以下のように記述しています。
  • ⑦ この法律において「社会的障壁」とは、《日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。》
  • ⑧ つまり「観念」という心の中の状態にまで踏み込んでペナルティを科すのが野党案なのです。例えばアニメやCMなどでキャラクターが性別二元制に基づく何気ない性役割を演じているだけであっても、一部のLGBTが「疎外感を覚える」と訴えれば、出版社や放送局は規制の対象となる可能性があります。あのサザエさんだって問題になるでしょう。
  • ⑨ ヘイトスピーチ解消法は、罰則規定を設けなかったことで多くの憲法学者から妥当だと評価されました。国家による表現の自由への介入を認めれば民主主義そのものが弱体化するとの判断があったからです。ところがこの法案はそれより一歩も二歩も踏み込んでおり、第二の人権擁護法案だと心配されています。野党案には国家主導のポリテイカル・コレクトネス社会を作りたいという下心が透けて見えるのですが、私は「表現」についてはあくまでも市民社会での揉み合い、試行錯誤の末の自己決定を尊重すべきだと思います。なぜならそれが立憲主義だからです。そもそもLGBT当事者間でも、何をもって「 日常生活の障壁」とするかは意見が分かれます。
  • ⑩ 先程例に出した性別二元制にしても、これを解体してほしいと考える当事者は少ないのです。ゲイが性愛の対象として求めているのは男性に他ならないわけですし、レズピアンなら女性です。トランスジェンダーも、男性/女性として社会の中で暮らしていくためには、むしろ性別二元制がなくなっては困るという人が多いのではないでしょうか。
  • ⑪ もちろんXジェンダーのようにそれが日常生活を送る上で苦痛だと考える人もいます。性のあり方は一つではなく、この方たちに対しては丁寧に対応していかなくてはなりませんが、本質主義批判一辺倒では何の解決にもなりません。 多くの人が欲している限り、性別二元制は制度としても文化としても残っていく蓋然性は高いでしょう。多数の幸せを支えるプラットフォームを壊すのではなく、バッティングしている権利をいかに調整していくかが政治には求められています。
  • ⑫ 一方、自民党のLGBT理解増進法案は理念法であり罰則規定はありません。自民党が目指すのは「カミングアウトする必要のない社会」です。 個々人にカミングアウトのリスクを背負わせるのではなく、 社会の側の意識を変えてLGBTの存在が当然のものとして受け入れられるようにしようというわけです。
  • ⑬ いま多くの企業がLGBTへの取り組みをはじめていますが、担当者の一番の悩みは当事者社員が名乗り出てくれないことです。確かにまだまだ差別への恐れがあり、名前を明かしにくい状況ではあるのですが、もう一つの理由として下駄を履かされることへの抵抗感があるようです。仕事で評価してもらいたいのに、周りから「あの人はLGBTとしてのプラスアルファがあったのではないか?」と疑いの目で見られることが耐えられないのだそうです。
  • ⑭ 考えてみれば、セクシュアリティは私たちのアイデンティティを構成する一部分にすぎず、会社員としての自分、家族としての自分、友人といるときの自分、 町内会でボランティアをしているときの自分など、いろんな要素で「自己」は出来上がっています。LGBTはそのすべての場面でカミングアウトをしているわけではありません。一貫したアイデンティティが課されることの功罪へも目配りしながらまとめられた自民党基本方針は、その部分においてクィア・スタディーズ(性的マイノリティを扱う学問)の問題意識と重なるのです。自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会アドバイザー繁内幸治氏は「10年先の世界一を目指す」と胸を張ります。

※ 番号は引用者において付した。

では、やや長くなるが、順次、批判を加えよう。そうすれば、まともなところはひとつもないとご理解いただけよう。

ア 国政で議論などされていない

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ① 杉田発言を受けて、野党は「改めてLGBT差別解消法を成立させなければならない」と意気込んでいます。現在国政では自民党案と野党案の二つのLGBT法案が議論されており、月刊G-menの元編集長の冨田格氏はその特徴を次のようにまとめています。

※ 番号は引用者において付した。

これは、永易氏も指摘しておられるように、「現在国政では自民党案と野党案の二つのLGBT法案が議論されており」としているのは明確な誤りである。自民党案は、党内で検討されているだけで、要綱のようなものさえ公表されていない。

また、野党案については、第190回国会に西村智奈美議員外六名によって提出され、2017年1月20日に衆院法務委員会に付託されたが、会期末に継続審議となり、その後は審議されていない。

従って、国政で議論されているというのはフェイクである。

イ 差別行為に罰則など設けられていない

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ② 《野党4党が提出した「LGBT差別解消法案」は、性的少数者への差別だとみなされる自治体や企業に対して、罰則規定を設けて差別を解消していくことを目指しています。

※ 番号は引用者において付した。

これは完全なフェイクである。法案の罰則は、第25条による協議会の事務に従事する者の守秘義務違反(第38条)と、第31条の主務大臣が求めた報告をしなかったり虚偽の報告をしたりした場合の違反について定めるのみである。

性的少数者への差別だとみなされる自治体や企業に対する罰則規定など存在していない。まったくのでっち上げである。

ウ 自民党案への評価について

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ③ 自民党の特命委員会で検討している「理解増進法」は、人権教育や人権啓発などを通じて性的少数者への理解を深めていくことで、「知らないが故に生まれてしまう差別的在感情」を減らしていくことを目指しています。
  • ④ どちらの法案も、性的少数者の人権を守るために考えられたものですが、その方向性やアプローチの仕方は大きく違います。》

※ 番号は引用者において付した。

これは、富田氏による評価を記述した部分であるが、差別感情や差別行為を啓発によってなくせるなら、誰も苦労はしないのである。啓発によって、それがなくせないからこそ、アムネスティインターナショナルも、次のように指摘しているのである。

【アムネスティインターナショナルの指摘】

日本におけるレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人びとの状況は、一見、申し分のないように見える。日本では、同意に基づく成人同性間の性行為は犯罪とは見なされない。同性婚は、国レベルではまだ法制化されていないが、5つの地方自治体が同性カップルを「結婚相当」と見なすようになった。

しかし現実には、LGBTの人びとは、日常的に根強い差別を受け、既成の文化的、社会的制度の中で、自身のアイデンティティーを隠し、受けるべき権利を放棄する結果となっている。

※ アムネスティインターナショナル「日本におけるLGBTの人びとへの差別」

そして、日本政府に対して、次の措置を取ることを求めている。

【アムネスティインターナショナルの要請】

あらゆる分野で、性的指向や性自認を含めあらゆる事由に基づく差別に対し平等な保護を規定する包括的な差別禁止法の整備を進めること。

※ アムネスティインターナショナル「日本におけるLGBTの人びとへの差別」

自民党案は、差別行為をなくすという観点からは、不十分なものであるとしか言いようがない。啓発だけでは差別はなくならない、だからこそ制度的なものが必要なのである。

エ 心の中の状態にペナルティを課すというあきれた嘘

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑤ 自民党案も野党案もLGBTへの良心から作られたことは間違いありません。しかし私は、この野党が掲げるLGBT差別解消法案には見逃すことのできない問題が内包されていると感じています。
  • ⑥ 野党案では、行政機関および事業者は性的少数者が差別だと感じる社会的障壁を除去しなければならないとして以下のように記述しています。
  • ⑦ この法律において「社会的障壁」とは、《日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。》
  • ⑧ つまり「観念」という心の中の状態にまで踏み込んでペナルティを科すのが野党案なのです。例えばアニメやCMなどでキャラクターが性別二元制に基づく何気ない性役割を演じているだけであっても、一部のLGBTが「疎外感を覚える」と訴えれば、出版社や放送局は規制の対象となる可能性があります。あのサザエさんだって問題になるでしょう。

※ 番号は引用者において付した。

ここまでくると、荒唐無稽としか言いようがない。まず関係する条文を示そう。この法案で「社会的障壁」という言葉が現れるのは、以下の条文だけである。見れば明らかなようにすべて努力義務で、これらに罰則を科すことはないし、その他のペナルティを課すことなどない。

【性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案】(抄)

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一及び二 (略)

 社会的障壁 日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。

(社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)

第5条 行政機関等及び事業者は、性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

(行政機関等における性的指向又は性自認を理由とする差別の禁止)

第9条 (略)

 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、現に性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去が必要である旨の申出があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、個人の権利利益を侵害することとならないよう、性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

(事業者における性的指向又は性自認を理由とする差別の禁止)

第10条 (略)

 事業者は、その事業を行うに当たり、現に性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去が必要である旨の申出があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、個人の権利利益を侵害することとならないよう、性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

第16条 使用者は、現に職場における性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去が必要である旨の申出があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、労働者の権利利益を侵害することとならないよう、職場における性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

(検討)

第9条 政府は、この法律の施行後三年を目途として、第十条第二項及び第十六条に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方その他この法律の施行の状況並びに職場及び学校等以外の場における性的指向又は性自認に係る言動に起因する問題に対処するための措置の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。

これらの条文を見れば明らかなように、「社会的障壁」については、行政機関等及び事業者に対して、以下のことを求めているのみである。

① 「社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努め」ること

② 「社会的障壁の除去が必要である旨の申出があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、労働者の権利利益を侵害することとならないよう」それぞれの組織「における性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努め」ること

松浦氏が言う「『観念』という心の中の状態にまで踏み込んでペナルティを科すのが野党案」などというのは、条文から明らかなように、まったくのフェイクであり、あきれた嘘というべきものである。

オ 「表現」に罰則を科すという嘘

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑨ ヘイトスピーチ解消法は、罰則規定を設けなかったことで多くの憲法学者から妥当だと評価されました。国家による表現の自由への介入を認めれば民主主義そのものが弱体化するとの判断があったからです。ところがこの法案はそれより一歩も二歩も踏み込んでおり、第二の人権擁護法案だと心配されています。野党案には国家主導のポリテイカル・コレクトネス社会を作りたいという下心が透けて見えるのですが、私は「表現」についてはあくまでも市民社会での揉み合い、試行錯誤の末の自己決定を尊重すべきだと思います。なぜならそれが立憲主義だからです。そもそもLGBT当事者間でも、何をもって「 日常生活の障壁」とするかは意見が分かれます。

※ 番号は引用者において付した。

ここでは、ヘイトスピーチ解消法には罰則がないが、LGBT差熱解消法には「表現」について罰則があるかのように述べているが、先述したようにまったくの嘘である。ここまで平気で見え透いた嘘をつくのであるから、松浦氏の寄稿になんの信用も置けないことは、ここからも明らかであろう。

しかも「野党案には国家主導のポリテイカル・コレクトネス社会を作りたいという下心が透けて見える」などと、どうすればこの条文からそのような主張が出てくるのであろうか。

カ 性別二元制を解体するという嘘

(ア)松浦氏の嘘

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑩ 先程例に出した性別二元制にしても、これを解体してほしいと考える当事者は少ないのです。ゲイが性愛の対象として求めているのは男性に他ならないわけですし、レズビアンなら女性です。トランスジェンダーも、男性/女性として社会の中で暮らしていくためには、むしろ性別二元制がなくなっては困るという人が多いのではないでしょうか。
  • ⑪ もちろんXジェンダーのようにそれが日常生活を送る上で苦痛だと考える人もいます。性のあり方は一つではなく、この方たちに対しては丁寧に対応していかなくてはなりませんが、本質主義批判一辺倒では何の解決にもなりません。 多くの人が欲している限り、性別二元制は制度としても文化としても残っていく蓋然性は高いでしょう。多数の幸せを支えるプラットフォームを壊すのではなく、バッティングしている権利をいかに調整していくかが政治には求められています。

※ 番号は引用者において付した。

松浦氏は、LGBT差別禁止法が性別二元制を解体するといいたいようだが、そもそも行政機関等及び事業者に対して求められているのは、「自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備」や「性的指向又は性自認に係る社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮」であって、しかもどちらも努力義務なのである。性別二元制の解体などを求めているわけではない。

(イ)我々は男と女の存在を否定しているのではない。

そもそも、我々が求めているのは、男女の両性しかないことを前提とするような社会制度からの脱却である。誰も、男性がいてはならないとか、女性がいてはならないなどとは主張していない。男性と女性の他にも多様な性があることを認めて欲しいと言っているだけなのである。

そして、そのことをLGBT差別解消法は否定していない。松浦氏はどのような嘘をついてでも、LGBT差別解消法にケチをつけたいらしいが、その裏には自民党へ受け入れて欲しいという意識が透けて見えるのではなかろうか。

男性と女性の他にも多様な性があることを認めて欲しいということが、どうしてゲイやレズビアンを困らせるのであろうか。そもそも松浦氏の主張は意味をなしていないのである。

キ 自民党案の擁護

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑫ 一方、自民党のLGBT理解増進法案は理念法であり罰則規定はありません。自民党が目指すのは「カミングアウトする必要のない社会」です。個々人にカミングアウトのリスクを背負わせるのではなく、 社会の側の意識を変えてLGBTの存在が当然のものとして受け入れられるようにしようというわけです。

※ 番号は引用者において付した。

松浦氏は、自民党案を高く評価されるが、結局のところ、差別する者がいても「啓発」以上のことはしなくてよいというに過ぎない。確かに、松浦氏のような"成功して保守に取り入りたいLGBT"にとっては、それが理想なのかもしれない。

松浦氏には、差別され、抑圧される人々の声が聞こえないようである。結局、彼の立ち位置は杉田議員と同じなのであろう。

ク あまりの現状認識のひどさ

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑬ いま多くの企業がLGBTへの取り組みをはじめていますが、担当者の一番の悩みは当事者社員が名乗り出てくれないことです。確かにまだまだ差別への恐れがあり、名前を明かしにくい状況ではあるのですが、もう一つの理由として下駄を履かされることへの抵抗感があるようです。仕事で評価してもらいたいのに、周りから「あの人はLGBTとしてのプラスアルファがあったのではないか?」と疑いの目で見られることが耐えられないのだそうです。

※ 番号は引用者において付した。

確かに、多くの企業でLGBTへの取り組みが進んでいることはその通りであり、前段は間違ってはいない。それらの企業の取り組みを私は高く評価するものである。だが、一部の企業において、やや好ましくない「配慮」が行われることがあることも事実であり、また取組を行っている企業がけっして多数派ではないこともまた間違いのない事実である。

松浦氏の最大の誤りは、当事者が名乗り出てくれない理由は「下駄を履かされることへの抵抗感」だとしていることである。実際は、そうではない、まだまだ「差別と偏見」への恐怖があるからである。また「名乗り出たとしても大した配慮が得られるわけではない」というあきらめがあるからである。

そもそもLGBTに対して「下駄を履かす」ことを、我々は求めていない。そんなことは誰も希望していないし、そんなことをしている企業もないだろう。あまりにも松浦氏の現状認識は現実とかけ離れているのである。

このような現状認識しかできないようでは、松浦氏はLGBTに対する差別解消について、何かを語るような人物ではなくなっているというべきであろう。

ケ 最後は自民党へのラブコール

【【新潮45の10月号の松浦氏の記事より】】

  • ⑭ 考えてみれば、セクシュアリティは私たちのアイデンティティを構成する一部分にすぎず、会社員としての自分、家族としての自分、友人といるときの自分、 町内会でボランティアをしているときの自分など、いろんな要素で「自己」は出来上がっています。LGBTはそのすべての場面でカミングアウトをしているわけではありません。一貫したアイデンティティが課されることの功罪へも目配りしながらまとめられた自民党基本方針は、その部分においてクィア・スタディーズ(性的マイノリティを扱う学問)の問題意識と重なるのです。自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会アドバイザー繁内幸治氏は「10年先の世界一を目指す」と胸を張ります。

※ 番号は引用者において付した。

そして、最後は、当時は存在すらしていない自民党案について、やたらに持ち上げて終わっている。野党案について事実と異なる批判をし、当時は存在すらしていなかった自民党案を褒め上げる目的は何なのだろうか。

どうか、松浦氏にお願いしたい。いったい、この執筆時にどの「自民党案」をご覧になってこのように述べておられるのか、せひ、ご教示いただければありがたい。


3 最後に

(1)松浦氏の主張とLGBT法連合会のLGBT差別禁止法

松浦氏は、以上、見てきたように野党4党の共同提案であるLGBT差別解消法に対して、心の中を規制するものだなどという、荒唐無稽な批判を行っている。

しかし、さすがにLGBT法連合会が提唱するLGBT差別禁止法に対しては沈黙を守っている。LGBT法連合会を批判すれば多くのLGBTの反発を受けるということは分かっているのであろう。だが、野党4党の差別解消法に比較して、差別禁止法の方がやや進んだ内容となっていることは確かで、これに対しても批判的な立場であることは間違いないだろう。

要は、松浦氏はLGBTに対する差別の解消は、啓発だけでよいという立場なのであり、LGBT差別禁止法とは相いれないのである。

なお、差別禁止法も「心の中」を規制したりする内容ではないことは当然である。ここでも、禁止されるのは「雇用差別」などである。これは企業にとっても多様な人材を活用できるという観点からは、決してマイナスにはならないのである。

そもそも「内心」に規制をかけるような法案を法律の専門家が作るわけがないだろう。なお、これは現に機会均等法などで一部実現しているのである。しかも、法違反があった場合も是正措置は行政による助言・指導・勧告等を想定しており、いきなり罰則をかけるものではないということも付記しておく。

なお、誤解のないように記しておくが、私は、現時点ではLGBT法連合会と直接のかかわりはない。


(2)松浦氏のリベラルへの裏切り

松浦氏は、リベラル派に対してLGBTを利用していると批判しておられるが、かつて「9条改正反対」「安保法反対」などと主張して、選挙でさんざんリベラル派を利用してきたことをお忘れになったのだろうか。

これまで松浦氏が利用してきたリベラル派やアライ(支援者)の方たちが、LGBTなど社会的なマイノリティへの差別解消に取り組んできた努力に対して、それを頭ごなしに「どの口で言っている」などと批判をするようでは、政治家としてよりも前に人間としての資質が疑われよう。

松浦氏は、安倍総理や杉田議員に対して、"LGBTの多くは保守層であり、自分はその票を集められる"とでも主張して、勢いのある自民党の比例区から出馬したいのかもしれない。しかし、そのために使い捨てにされるリベラル系のLGBTやアライの人々はどうなるのだろうか。

なお、最近、松浦氏は新潮45の編集がリベラルに寄稿を依頼したがリベラルは逃げたなどと言い募っているが、冗談ではない。これだけあちこちで杉田議員への批判が表明されているのである。逃げてなどいないことは明らかである。結局、これは松浦氏が杉田議員を新潮45で擁護したことのあわれないいわけにすぎない。


(3)裏切り者を保守層は受け入れるだろうか

気の毒なことに、松浦氏が対談をしたいと政治的ラブコールを送っている杉田議員からは相手にされなかったようである。かつて、さんざん左翼的な言辞を弄しておきながら、いまさらLGBTは強い国家に寄与すると言っても杉田氏のような右翼には信用されなかったのだろう。

変節漢や裏切り者は、相手側からも決して心から信用されることはないようだ。まあ、仮に相手にされたところで、杉田議員との間にまともに会話が成り立つとも思えないが。

安倍前総理や菅総理にしたところで、このようなさして知名度があるわけでもない変節漢と手を組むまでもなく、生粋の右派や保守の中に人材はいくらでも得られるだろう。自ら裏切ったリベラルからは相手にされず、保守層からも受け入れられず、さてこれからどうなさるのだろうか。