杉田水脈氏批判 その1


杉田水脈議員が新潮45にヘイト文章を載せたことは、自民党及び安倍総理(当時)の差別思想を改めて国民に認識させるものでした。

自民党は、消極的ながらも杉田議員の差別思想を容認し続けています。政権にある政党が、ヘイトクライムを行っていることはわが国にとっても大きな悲劇と言わざるを得ません。

杉田議員の差別文書の問題点を、論理的かつ徹底的に批判しています。




1 杉田発言の問題点

執筆日時:

最終修正:

筆者:柳川

(1)杉田議員の新潮45への寄稿

ア 新潮45の寄稿の驚くべき内容

7月23日、自民党の杉田議員が、LGBT(※)について「新潮45」において次のような主張を行い、関係者団体が抗議を行っているとの報道があった。

※ 私は、LGBT(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの略)という用語は必ずしも正確な言葉ではなく、SOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)というべきだと思っているが、LGBTの方が一般的なのでそれで統一する。

【新潮45の杉田議員の発言より】

  • ① LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか
  • ② 最近はLGBTに加えて、Qとか、I(略)とか、P(略)とか、もうわけが分かりません。なぜ、男と女、二つの性だけではいけないのでしょう。
  • ③ 「常識」や「普通であること」を見失っていく社会は、「秩序」がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません

※ 番号は引用者において付した。

近くの図書館へ行ってその雑誌を借りて読んでみた。買うわけにはいかない。その雑誌は値段だけの価値がないからだ。

なお、杉田議員は、寄稿の一部が切り取られて言葉だけが批判されていると主張しておられるようだが、冗談ではない。たんなる生産性という言葉の問題だけではないのだ。生産性という言葉ももちろん問題なのだが、全体に記述されていることが、差別意識に満ちた、とんでもない内容なのである。

読んでみて感じたことは、次の2点である。

【新潮45の杉田議員の発言の特徴】

  • ① 国民の多様な生き方を否定している。
  • ② すさまじく非論理的な内容である。

②はともかくとしても、①のような発言を国会議員するということは、我が国の社会と民主主義にとって、きわめて重大な問題を含んでおり看過できない。この問題はすでに炎上しており、ことによると大火の中にマッチ棒を放り込むだけになるかもしれないが、以下、本稿において杉田議員のこの文章の問題点について、私自身の考えを述べておきたいと思う。

イ この問題はLGBTだけのものではない

この問題はLGBTだけの問題ではない。どうか、自分はLGBTではないからという理由だけで、この問題から目をそらさないでいただきたい。

LGBTを否定する社会は、いずれは、他の少数派をも否定するようになる。そしてそのような社会は、多数派の国民にとっても生きにくいものとなり、結局は活力を失ってゆくのである。これはすべての人々の問題なのである。


(2)杉田議員の問題点

ア 「生産性」によって税金投入を切分けるべきとしていること

(ア)杉田議員の主張

【新潮45の杉田議員の発言より】

「生きづらさ」を行政が解決してあげることが悪いとは言いません。しかし、行政が動くということは税金を使うということです。

下向き矢印

【新潮45の杉田議員の発言より】

LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか

行政の施策について「あげる」などという「上から目線」の言葉を使うことも国会議員として問題ではあるが、言葉尻については、この際、問わないことにしよう。

この杉田議員の主張を論じるにあたって、まず、明確にしておくべきことがある。税金によって報酬を受けて仕事をしている国会議員や行政の職員は、大前提として次のように考えなければならない。

【政治・行政の大前提】

  • ① すべての人は社会の大切な構成員であり、政治思想や、人種、性的な指向などによって、国家が不当な差別や排除をすることは許されない。LGBTであろうとなかろうと、この国で生きている者は、すべて我々の社会の一員なのだ。
  • ② その社会の一員が、いわれなき差別を受け、生きにくい状況に置かれているとすれば、それを解消しようとするのは社会が果たすべき責務である。すなわち、それを解決するのは、政治や行政の役目なのである。

ところが、杉田議員は、ここを否定するのである。そして、"国家"にとっての"生産性"がないものに対して、国が支援することは許されないと言うのだ。

杉田議員は、まず「生きづらさ」を行政が解決することは悪いことではないという。しかし、LGBTについては「生産性がない」からそのようなことはするべきではないと言う。

すなわち、国民の持つ「生産性」によって、その国民に税金を投入するかどうかを決めるべきだというのである。国家にとっての「生産性」のない者には税金を使うべきではないと言っているのだ。

(イ)杉田議員の主張の問題点

だが、税金とは何だろうか。当然のことながら、それは国会議員のポケットマネーではないし、まして杉田議員の金でもない。LGBTを含めた我々国民が、社会のため、国民のために用いるべく、行政に託したものなのである。

そして、現に、我々の社会の一員が、いわれなき差別に苦しんでいたり、生きにくさに苦しんでいたりしているのである。その解消のために税金を使うことになんの問題があろうか。すくなくとも、飛んでくるおそれのほとんどないミサイルを迎撃するための陸上イージスに大金を使うよりも、よほど有意義であろう。

要は、我々が行政に託した金を、国家の秩序と生産性のために用いるのか、国民の幸せのために用いるのかということである。問題はLGBTのことにとどまらないのだ。

杉田議員のような思想は、現代の文明社会においては許されない露骨な優生思想であるといえよう。かつてナチ党が、LGBTの国民を迫害した(※)ことと根本の思想は同じなのだ。

※ ナチは、ユダヤ人のみならず、精神障がい者や同性愛者をも強制収容所に送って殺害したのである。なお、ナチ党の初期の幹部だった突撃隊隊長のレームが同性愛主義者だったことは当時も公然の秘密であった。ヒトラーはレームの考え方が政権奪取に都合が悪くなると彼を粛清してしまうが、その後で、レームが同性愛主義者だったことを知って驚いたと言っている。

イ LGBTは存在しなくてよいと言っていること

(ア)杉田議員の主張

【新潮45の杉田議員の発言より】

最近はLGBTに加えて、Qとか、I(略)とか、P(略)とか、もうわけが分かりません。なぜ、男と女、二つの性だけではいけないのでしょう。

この部分は、マスコミ等はあまり問題にしていないようだが、私はこの部分が最も重大な差別発言であると考えている。

杉田議員は「なぜ」と問うが、それに答えるのは簡単だ。我が国を含めて全世界にLGBTの方がたが、現に存在しているからである。そのことは、解説するまでもなく明らかである(※)

※ カミングアウトするLGBTの方は少ないので、周囲にいないように思えるかもしれないが、実はその割合はかなり高い。中西絵里「LGBTの現状と課題」(2017年)がいくつかの調査をまとめているが、それによれば、我が国におけるLGBTの割合は約8%とされている。

ところが杉田議員は、「男と女だけでいい」、すなわちLGBTのみならず、他の性的少数者を含めて「存在しなくてよい」と言っているのである。「あなたは必要ない、存在しなくてよい」と言っているのだ。

(イ)杉田議員の主張の問題点

この寄稿の本質は、まさに杉田議員がLGBTの方たちの存在を否定しようとしていることにある。

「もうわけが分かりません。なぜ男と女、二つの性だけではいけないのでしょう」として、国民の多様性を認めない、少数派の存在を認めようとしない発言を公然と行う方に、国会議員としての資質があるといえるだろうか。私にはそうは思えない。

この問題は、LGBTを肯定するか、否定するかの問題だけではない。人権の問題なのである。これは、許すべからざる差別発言である。

ウ "国民"の上に"自分の考え"を置いていること

【新潮45の杉田議員の発言より】

「常識」や「普通であること」を見失っていく社会は、「秩序」がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません

また、杉田議員は、「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は、『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません」と言われる。だが、その「常識」や「普通であること」とは、だれが決める「常識」や「普通であること」なのだろうか?

おそらく、それは杉田議員にとっての「常識」であり「普通であること」なのだろう。だが、国民が10人いれば、そこには「常識」も10通りあってよく、「普通であること」も10通りあってよいはずなのである。

杉田議員のように、「常識」や「普通」を一通りしか認めず、他にも「常識」や「普通であること」が存在していることを認めないというのなら、そのような社会は息が詰まるような活力のない社会になってしまうだろう。

むしろ、「常識」や「普通であること」が多様な社会こそが、活力にあふれているのではなかろうか。特定の「常識」や特定の「普通であること」を国家が定めるというのなら、それはナチ党の"国家による思想統一"と同じであろう。

政府が考える公式の「常識」や「普通であること」を国民に対して強制して、国家の「秩序」を守ろうとするのは、ファシストの常とう手段である。「秩序」が国民の多様性や自由な生き方に優先されるなら、そのような社会は社会構成員のためのものではなくなる。

戦前のような国家の「秩序」のために「国民」が存在するような社会に、私は日本をしたくない。


2 杉田議員の寄稿の非論理性

次に、本質論からは外れるが、杉田議員の寄稿の非論理性についていくつか指摘しておこう。


(1)自らの考えを普遍化する幼稚さ

まず、杉田議員の日本の現状を認識する在り方に、幼稚な点が見られることを指摘しておこう。新潮45に次の記述がある。

【新潮45の杉田議員の発言より】

しかし、LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます。職場でも仕事さえできれば問題ありません。多くの人々にとっても同じではないでしょうか。

これは、自らを進歩的にみせかけたいがための発言だろう。表面的にはLGBTに対して差別意識がないようにみせかけているが、上から目線の差別意識が見え隠れしている。「私は、ゲイやレズビアンだったりしても、平等に扱ってあげるよ」といっているのだ。差別される側の立場に立つという意識は全く感じられない。上からの目で「問題ありません」と言っているのである(※)

※ 杉田議員は一般人ではない。政治家なのだから、「私(本人)が差別しないから問題はない」と言えば済む立場ではない。

だが、ここではその点については問わない。しかし、仮に杉田議員に差別意識がないとしても=明らかにあるのだが=この発言はやはりおかしいのである。自らの感覚を、何の根拠もなく、社会全体についても同じだとしてしまっているからだ。これは国会議員としてあまりにも幼稚だというべきだろう。

現実はそうではない。同性婚人権救済弁護団がまとめた「同性婚だれもが自由に結婚する権利」(明石書店2016年)には、LGBTに対する差別や無理解の実態が数多く挙げられている。

また、2005年の「日本のゲイ・バイセクシャル男性対象の調査」によれば、「自殺を考えたことがある」65.9%、「自殺未遂をしたことがある」14%などとなっている。そして、平成24年の政府の「自殺総合対策」には、自殺念慮の割合が高いことについて無理解や偏見等がその背景にあるとされているのである。

渋谷駅頭の抗議行動で、スピーチをされた方が「杉田議員はLGBTの子供の自殺率が6倍高いということを笑いながら発言していた」と指摘しておられた(※)。すなわち、杉田議員は、このような事実関係を知っているのである。知っていながら、差別がないなどと発言するのは、杉田議員の感性を疑いたくなるというものだろう。

※ 私もユーチューブでその動画を観て、杉田議員が楽しそうに笑いながらLGBTの子供の自殺率が高いと話していることを確認した。


(2)杉田議員は3つ以上のことは理解できない?

冒頭でも述べたように、杉田議員の次のようにも述べておられる。

【新潮45の杉田議員の発言より】

最近はLGBTに加えて、Qとか、I(インターセクシャル=性の未分化の人や両性具有の人)とか、P(パンセクシャル=全性愛者、性別の認識なしに人を愛する人)とか、もうわけが分かりません。なぜ男と女、二つの性だけではいけないのでしょう。

その差別性については先ほど述べた。ここでは、その非論理性について指摘しておこう。そのために、この杉田発言を次のように置き換えてみよう。そうすると、この非論理的がより明確になる。

【杉田議員の発言が正しいなら・・・】

欧州とか、中東とか、ウクライナとか、東チモールとか、イギリスとか、日本とか、韓国とか、もうわけが分かりません。なぜアメリカとロシア、二つの国だけではいけないのでしょう。

杉田議員の主張の理論建ては、これと全く同じである。もちろん、アメリカとロシアだけではいけないのは、現に多くの国が存在しており、それぞれの国のことはそれぞれの国民が決めるべきことだからであることは言うまでもないだろう。

もう一度、繰り返すが、杉田議員は、「自分の理解できないような少数者はいなくてよい」と言っているのだ。私は、杉田議員のこのような、ある人々の存在を否定するような考え方を、絶対に容認することはできないし、また容認してはならないと思う。

3つ以上になると「もうわけが分か」らなくなるようでは、複雑な国際情勢や国内情勢を理解することは困難であろう。それでは議員の職務などとても勤まるまい。さっさと議員を辞職なされては如何だろうか。

なお、両性具有(※)は性染色体(XY染色体)が、通常とは異なる場合などに起きるものである。染色体が通常とは異なるケースについては、その意味ではダウン症候群と同じなのである。LGBTについてのこのような議論に持ち出すことは適切ではないのではなかろうか。

※ なお、モントリオール宣言は、両性具有について、本人の性自認を尊重すべきとしており、十分なインフォームド・コンセントの伴わない「治療」から児童が保護されるべきとしている。


(3)杉田議員の寄稿の根拠のいいかげんさの一例

杉田議員のこの寄稿には、無知をばく露している非科学的な部分が多いが、そのひとつがこれである。

【新潮45の杉田議員の発言より】

マスメディアが「多様性の時代だから、女性(男性)が女性(男性)を好きになっても当然」と報道することがいいことなのかどうか。普通に恋愛して結婚できる人まで、「これ(同性愛)でいいんだ」と不幸な人を増やすことにつながりかねません。

「同性愛」を不幸な人、「異性愛」を「普通」と言い切っている傲慢ぶりは、ここではおこう。しかし、マスメディアによって人がLGB(ここではTは挙げられていない)になるというなら、その科学的な証拠を示して頂きたいものである。

同性愛が先天的なものか、後天的なものかについては、現時点で学問的に解決されてはいない(※)。しかし、マスメディアの影響で同性愛になるなどという学説は、私が知る限り存在していない。

※ 先天的とするものとして、サイモン・ルベイ「クィア・サイエンス-同性愛をめぐる科学的言説の動向」(勁草書房2002年)など。

国会議員という立場にありながら、非科学的な珍説を弄して、マスメディアの自由な言論に対して批判をするのでは、民主主義に対する挑戦だと言われても仕方がないであろう。


(4)杉田議員の思考過程の飛躍の一例

杉田議員のこの寄稿には、論理の飛躍が随所にみられるが、すべて列挙するのはあまりにもばかばかしいので、ここでは次の例だけを挙げておこう。

【新潮45の杉田議員の発言より】

多様性を受けいれて、様々な性的指向も認めよということになると、同性婚の容認だけにとどまらず、例えば兄弟婚を認めろ、親子婚を認めろ、それどころかペット婚や、機械と結婚させろという声も出てくるかもしれません。現実に海外では、そういう人たちが出てきています。

この論理の飛躍には、あまりにもばかばかしいからか、誰も批判さえしていないようだ。

ここでの問題はLGBTなのである。同性婚について問題になっているときに、「兄弟婚」「親子婚」の話を持ち出してどうしようというのか。まして、LGBTと「ペット婚や、機械と結婚させろ」となんの関係があるというのだろうか(※)

※ 「私はイチゴが嫌いです。日本をイチゴがある社会にしたくありません。イチゴを認めるということになるとバナナやマンゴーも認めろということになりかねません」と言っているのと同じレベルだろう。まさに幼稚園児が駄々をこねているよりも、さらに低レベルの"論理"としかいいようがない。因みに、私(柳川)は、イチゴもバナナもマンゴーも大好きだ。

LGBTについて論ずる上では、意味のない主張としか言いようがないだろう。このようなことを「同性婚」を認めない「根拠」としていることひとつをとってみても、杉田議員に論理的な思考をする能力が欠如していることが分かるというものである。

しかも、なぜ「兄弟婚」「親子婚」に問題があると杉田議員が考えているのかについても、まったく説明されていない。そのため、二重の意味で論理が成り立っていないのである。

なお、「兄弟婚」や「親子婚」については、現在の民法では認められていない(※1)が、それについて国民の中に認めて欲しいという要望があるのなら、そのあるべき姿について、まじめに検討することが政治家には求められることなのではなかろうか(※2)

※1 血のつながりがない、法定血族の兄弟姉妹間は、異性であれば結婚することは認められている。

※2 なお、筆者(柳川)は、兄弟婚や親子婚を肯定しているわけではない。しかし、世界の歴史を見てみると、それらをとくに問題視していない国・時代があったことも事実なのである。倫理観というものは、常に変わってゆくものなのだ。因みに古事記の国産み神話のイザナミとイザナギは兄妹神である。


3 杉田議員の新潮45発言後の経緯

(1)杉田議員のツイッターによる正当化

ア 杉田議員のツイートの内容

当然のことであろうが、これに対してはマスコミのみならず、WEB上でも、多くの批判や抗議がなされた。すると杉田議員は7月22日と23日に、ツイッターで次のように自らの主張を正当化する発言をしたのである。

【杉田議員のツイート】

(7月22日)

自民党に入って良かったなぁと思うこと。

「ネットで叩かれてるけど、大丈夫?」とか「間違ったこと言ってないんだから胸張ってればいいよ」とか「杉田さんはそのままでいいからね」とか大臣クラスの方を始め、先輩方が声をかけてくださること。

今回も他党の議員が私が雑誌に書いた記事を切り取り(※)

※ 弁護士猪野亨のブログ 生産性のない人に税金を使うのは無駄 要は子を産まない女性に価値なしという杉田水脈議員の発想は恐ろしいの中の杉田議員のツイッターのハードコピーによる。

(7月23日)

ネットに出したことで色々言われています。LGBTの理解促進を担当している先輩議員が「雑誌の記事を全部読んだら、きちんと理解しているし、党の立場も配慮して言葉も選んで書いている。言葉足らずで誤解される所はあるかもしれないけど問題ないから」と、仰ってくれました。自民党の懐の深さを感じます(※)

※ 陽平ドットコム~試みの水平線~ 自民党杉田水脈衆議院議員の『新潮45』への寄稿は不適切発言の特盛であるの中の杉田議員のツイッターのハードコピーによる。

ところが、その後、杉田氏はゲイだという男性から脅迫状が届いたということを理由にして、LGBT関連のツイートをすべて削除してしまった。内容が間違っていたと反省したわけではない。脅かされて削除したというのである。

もちろん、相手が政治家であったとしても脅迫状を送るなどということは犯罪行為であり、許されることではない。しかし、いやしくも政治家たるもの、その程度の脅迫に屈して、自ら正しいと信じる発言を削除するというのは如何なものであろうか。

間違っていると分かったのなら話は別だが、正しいと思っている発言を脅されて削除するというのは、政治家としていささか情けないということは指摘しておこう。

イ 杉田議員のツイートの問題点

さて、この杉田議員のツイートは2つのことを示している。ひとつは、杉田議員は新潮45における自らの発言を「正しいこと」だと認識しておられることを再確認したということである。

もうひとつは、大臣級の自民党の議員で、杉田議員の発言を容認しているどころか、「間違っていない」と発言している方がおられるということを、杉田議員本人が認めたということである。

この後者は、きわめて重大な意味を持つ。現政権の主要な構成員がナチ党なみの優生思想や、国民の思想統一を是とする考え方を持っているということを示しているからである。


(2)杉田議員の発言への批判が巻き起こる

ア 当事者などからの批判

(ア)声明文など

この杉田議員の新潮45での発言に対する関係団体の反応は早かった。それだけ、この問題が重視されたということである。7月23日には、LGBT法連合会が「衆議院議員杉田水脈氏の論考「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対する抗議声明」を出し、8月2日には「【声明】衆議院議員杉田水脈氏の論考に対する 杉田氏および自由民主党の対応について」を出している。

また、翌24日には、LGBT支援法律家ネットワーク有志が「杉田水脈氏論稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」に対する抗議声明」を出し、「そもそも子どもの存在や出産・子育てを,国家の経済的「生産性」(経済的利益)から捉え,それに資するかどうかで施策の対象となる個人を選別することは,憲法の「個人の尊重」や基本的人権の保障の理念に著しく反する」と指摘した。

(イ)抗議行動

7月27日になると、自民党本部前で5,000人(主催者側発表)が集まって抗議行動(※)を行った。このとき、レインボーフラッグを手にした鈴木南十星なとせさんという方が「私は生きているだけで価値がある」「生産性なんていう言葉で私を測ったりするな」「LGBT関係ない、性別関係ない、職業関係ない、年齢も関係ない、誰でも生きているだけで価値がある」と悲痛な声を挙げておられた。

※ リンク先は「Movie Iwj」のユーチューブの動画である。鈴木南十星なとせさんのスピーチがアップされている。

抑圧された側、差別された側にあるものの魂の叫びだと、私には思える。「私は生きているだけで価値がある」という、この言葉は、差別され、抑圧された経験を持つ者の胸に響く言葉だ。しかし、この声が杉田議員や二階幹事長、安倍総理、石原元東京都知事の胸に届くことはないだろう。彼らにはこの声を受け入れる能力が欠如しているからだ。

また、この抗議行動を報じた毎日新聞のユーチューブ動画で、それまでカミングアウトをしていなかったという、ある大学の准教授の方が「私はゲイだ。それがどうした。私たちはここにいる。This is Pride!」と声を挙げておられる。当事者の強い怒りを感じさせられる言葉だ。

また、この行動には政党関係では、共産党の吉良よし子議員や、社民党の福島瑞穂議員なども、マイノリティへの差別に対して抗議の声を挙げておられる。杉田議員の寄稿に対する怒りが、当事者の枠を超えて広がっているのである。

また、8月5日にはハチ公前に数百人(※1)が集まるなど各地で抗議集会(※2)が開かれた。なお、このときも、鈴木南十星さんはスピーチを行っておられる。

※1 毎日新聞サイトの2018年8月5日付け記事による。

※2 リンク先は、hiroshi kuwahara氏がアップしたユーチューブの動画である。抗議活動のスピーチなどがアップされている。

イ 政党、市民団体等による批判

(ア)政党関係者による批判

政党関係では、私が知る限り最初にこの問題について理に適った指摘をされたのは、共産党の小池書記局長である。氏は7月23日に「生産性がないというのは、個人の尊厳を根本から否定する妄言だ」と指摘された。また、同党は、8月4日に、自民党の対応に対して「形ばかりの対応ではすまない」としんぶん赤旗に主張を載せている。

立憲民主党も、7月26日に党として「基本的人権、自己決定権を否定する思想であり看過できない」と声明を出した。

また、与党である公明党の山口代表さえ「子どもを産む、産まないことを非難がましく言うという言動はいかがなものか」と述べておられる。批判は野党ばかりか与党にまで広がったのである。

(イ)自民党内部からも批判が

次いで意外なことに、自民党の稲田氏が7月24日になって、杉田氏の名は挙げなかったものの、「私は多様性を認め、寛容な社会をつくることが『保守』の役割だと信じる」とツイートされた。

また、同党の石破元幹事長も7月27日に、「そんなことを自民党が言っていいはずがない。それは間違っているという自民党でなければならない」と明確に述べられた。また、「人権や気持ちを傷つける自民党であって欲しくない」とも言っておられる(※)。なお、石破幹事長は、これ以降も、しばしば杉田議員の発言を批判された。

※ 朝日新聞DIGITAL2018年7月28日付け記事による。

さらに小泉進次郎氏も「ああいう発言が党内から出てしまうことが悲しい」と述べられた(※)

※ 朝日新聞DIGITAL2018年8月1日付け記事による。

しかし、その自民党そのものは、後に述べるようにこの問題について党としての反応は鈍い。それどころか、形ばかりの、不十分な対応しかしておらず、容認しているとしか思えないのである。

(ウ)LGBT当事者以外からも批判が

さらに、作家の乙武氏は「国家にとってどれだけ有益かという観点から優劣がつけられる社会になれば、次に排除されるのは『私』かもしれない」と指摘された。その通りである。冒頭に指摘したように、この問題はたんにLGBTだけの問題ではない。すべてのマイノリティの問題でもある。

また、8月7日には「すべての人が差別されることなく安心して生きていく会」も「出産の可否を行政支援の根拠とするのは偏見と差別だ」などとする抗議声明文を発表している。

繰り返すが、これはマイノリティのみならず、同時に多数派の問題でもあるのだ。LGBTや障がい者の方に対して、生産性がないなどという国家の側の都合によって、"税金をつぎ込む必要がない"などとされるような社会は多数派にとってもけっして生きやすい社会ではないのである。

それは、ごく一部の"エリート"たちによって支配されるエリートのための国家であるといえよう。


(3)自民党は、問題意識の低さを露呈

ア 二階幹事長は杉田発言を容認

杉田議員のこの発言について、自民党の二階幹事長は記者の質問に対して、「右から左まで各方面の人が集まって自民党は成り立っている。(政治的立場での)そういう発言だと理解したい」とし、問題視しないとした。

【自民党WEBサイトより】

Q TBSです。このような発言が上がるということになると、党としては多様性を認めるということを掲げている一方でこういう主張をするということで残念だという声も上がっているんですけれども、幹事長は率直にどのように、ご発言を受け止めますか。

A いろんな考え方の人がおりますからね、それを右から左まで各方面の人が集まって自由民主党は成り立っておると思っておりますから。こういう発言があったということは、そういう発言だということに理解をしていくということで進めて行きたいと思っております。

Q TBSです。なかなか案件をたくさん抱えていらっしゃる中で、考えの中には無いのかもしれないですけれども、杉田議員から直接、幹事長室としてお話を聞くという機会を設ける考えはありますでしょか。

A 今のところは特別そういう考えは持っておりません。

※ 2018年7月24日の「役員会・役員連絡会後 二階俊博幹事長記者会見」から

だが、これは右とか左とかの問題ではない。まさに人権の問題なのである。自民党がマイノリティの人権についてどのように考えているかという問題なのだ。

また、朝日新聞(※)によると、二階幹事長は、韓国において、記者団に対して「こういうことはそんなに大げさに騒がないほうがいいんです。この程度の発言があったからと言って、帰国してからどうだってそんな話じゃありません」と話した。

※ 朝日新聞DIGITAL2018年8月2日付け記事による。

二階幹事長は、これだけ批判がある中で2度に渡り、杉田議員の発言を容認するとしているのであるから、自民党の幹事長としての確立した考えであると言ってよいであろう。

すなわち、自民党は党として、杉田議員の考えを容認すると明言したのである。それを自民党の多様性のひとつであり、党是と矛盾しないとしているのである。

イ 自民党は杉田議員を指導した(と述べた)

批判が高まる中で、自民党もさすがにまずいと思ったのか、この杉田議員の発言について「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実」として、「今後、十分注意するよう指導した」とWEBサイトに掲示した。

【自民党WEBサイトより】

LGBTに関するわが党の政策について

2018年8月1日

自由民主党

わが党のLGBTに関する政策については、「性的指向・性自認に関する特命委員会」において議論され、平成28年5月、「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」が取りまとめられ、同年7月の参議院選挙及び昨年の衆議院総選挙の公約に明記されたところです。わが党は、公約に掲げたように性的な多様性を受容する社会の実現を目指し、性的指向・性自認に関する正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定に取り組んでいます。

今回の杉田水脈議員の寄稿文に関しては、個人的な意見とは言え、問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現があることも事実であり、本人には今後、十分に注意するよう指導したところです。

わが党は、今後ともこの課題について、各国の法制度等を調査研究しつつ、真摯かつ慎重に議論を進め、議員立法の制定を目指していく所存です。

皆様のご理解とご協力をお願いいたします。

しかしながら、これはまったく不十分なものと言わざるを得ない。本質的な部分から目をそらし、たんなる「理解不足」、「配慮を欠いた表現」だけの問題としている。内容が「間違っている」とは一言も書かれていないのだ。であれば、内容については、党としては容認していると考えるしかない。

また、杉田議員本人も「真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます」とコメントしたが、執筆した内容が間違っているとは言わなかった(※1)。また、謝罪もしていない。内容について、正しいという考えを変えていないのだ。まさに、形だけであり、反省しているという意識は感じられない(※2)

※1 朝日新聞DIGITAL2018年8月2日付け記事による。

※2 週刊文春によると、自民党が杉田議員を指導した翌日の8月2日に、安倍総理が参加している自民党山口県連の会合に、杉田議員は「すみませーん、お騒がせしています」と言いながら笑顔で現れたという。事実とすれば、とても反省しているとは思えない態度である。

朝日新聞が行った世論調査でも、「この問題への自民党の対応について『問題がある』は61%で、『問題はない』26%を大きく上回った」(※)とされ、国民の過半数が、この対応に納得していないことが明らかとなった。

※ 朝日新聞DIGITAL2018年8月6日付け記事による。

ウ 安倍総理は記者団の問にあいまいに対応(8月2日)

安倍総理は「視察先の宮城県東松島市で記者団の質問に応じ、杉田氏の主張について「自民党としてすでに見解を表明しているものと承知している」としたうえで、人権や多様性の尊重は『政府・与党の方針だ』と答えた」(※)という。

※ 朝日新聞DIGITAL2018年8月2日付け記事による。

すなわち、"党としての"方針は示したとは言っているが、総理自らの考えとして、杉田議員の考えが誤っているとは、一言も言っていないのである。総理個人としては、杉田議員が、このような考えで議員活動を行うことについて否定はしていないのだ(※)

※ 週刊文春によると、安倍総理は「彼女はそんなに有名じゃないのに、なんでみんな騒いでいるんだろうね」と言ったとされている。

これでは、杉田議員のいわれる「『間違ったこと言ってないんだから胸張ってればいいよ』『そのままでいいからね』とか大臣クラスの方々をはじめ、先輩方が声をかけてくださる」の「先輩方」の中に安倍総理が入っているのではないかと言われてもしかたがないのではなかろうか。

エ 安倍総理は杉田氏を処分しないと明言(9月17日)

9月18日の時事通信によると、安倍総理は「17日のTBSの番組で、自民党の杉田水脈衆院議員がLGBT(性的少数者)のカップルは『生産性がない』などと月刊誌に寄稿したことに関し、『まだ若いから、注意をしながら仕事をしていってもらいたい』と述べ、処分は不要との考えを明らかにした」とされる。

この安倍発言はきわめて重大な問題を含んでいる。まず、第一の問題は「考えを改めて」とか「反省をした上で」とはされておらず「注意をしながら」とされていることである。これでは、LGBTへの差別意識はそのままで、外部からの批判を受けないように「表現」には注意しろということであろう。差別そのものは容認したと言っているようなものである。

第二に、若ければ、国民の心を傷つけてもよいというのだろうか。国会議員には、一人当たりで歳費(報酬)2,200万円や政党助成金4,000万円など1億程度の税金が支出されているのである(※)。しかも、若いといっても杉田議員は51歳である。それなら、51歳以下の自民党の国会議員は全員辞表を書くべきだと思うのは私だけだろうか。

※ ちなみに法務省の「LGBT(性的少数者)の人権問題対策の推進」のための平成29年度予算額は約1300万円にすぎない。

第三に、議員があれほどの問題を起こしているにもかかわらず、党としての処分を、組織としてではなく総理が個人で決めているということである。これでは、自民党は近代的な政党としての体をなしていないというべきであろう。

いずれにせよ、安倍総理は杉田議員の差別発言について、「注意をしながら」という発言によって、考え方そのものについては完全に容認したとみてよいだろう。


(4)杉田議員は説明義務を放棄

ア 説明義務を一切放棄

これだけ批判が巻き起こっているのであるから、杉田議員は国税から報酬を得ている国会議員として、新潮45の寄稿について国民に説明する義務があるのではなかろうか。

ところが、殺害予告のメールが届いただの、ストーカーの問題があるだのと、理由にもならない理由を付けて一切公式な場に姿を見せていないのである。

公的な説明をしないことと、殺害メールなどとの間に、何の関係があるというのだろうか。すでに新潮45の寄稿は世に出てしまっているのである。むしろ、誤解を受けているというなら、明確に誤解を解くようにした方がよいのではなかろうか。まして、ストーカーなど、政治的な説明をするかしないかとは何の関係もないであろう。

たんに、議員としての説明義務を放棄しているだけのことであろう。

イ 記者の質問には無言で対応

朝日新聞(※)によると、9月14日に記者団から「(自民党性的指向・性自認に関する特命委員会の委員長の)古屋(圭司)さんから、どういう指導を受けたのか」という質問に対し「(答えることは)何もないです」と回答し、その後、「今も考えに変わりはないのか」「どういう思いでおっしゃったのか」という質問に対しては、言葉を発しなかったとされる。

※ 朝日新聞DIGITAL2018年9月14日付け記事による。

まさに国民を愚弄するものといえよう。

ウ 南京虐殺を否定する会合で驚くべき発言

TBSラジオの9月20日の音声配信(※)に、杉田議員が南京虐殺を否定する会合で語ったとされる驚くべき内容の音声が記録されている。話の途中に「あのぉ」という声がしょっちゅう挟まる杉田議員特有の話し方であり、声も確かにチャンネル桜の杉田議員の声と同じで、杉田議員本人のものであることは間違いないと思われる。

※ TBSラジオ「【音声配信】『新潮45』で話題の自民党・杉田水脈議員。イベントに登壇して何を語ったのか?荻上チキが取材・レポート▼2018年9月19日(水)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」)」の後半による。

なお、この会合とは、9月19日に東京都文京区の文京シビックセンター小ホールで「南京戦の真実を追求する会」が開催したもので、杉田議員の他には中山成彬議員(希望の党)、原田義昭議員(自民党)、渡辺周議員(国民民主党)が出席している。

この動画の荻上氏の解説(動画8:40から)によると、当日、入り口で主催者が杉田議員の8月号の寄稿の写しを配布していたという。杉田議員は、この会合では8月号の寄稿について直接の発言をすることはなかったとのことだが、次のように述べておられる(本人の声が動画に入っている。10:50頃からであるので、ぜひ視聴してみてほしい)

【杉田議員の9月19日の会合での発言】

先日ですね。あの、広島の方にあの講演にまいりまして、あのー広島と言えば、まだあのぉ西日本の大豪雨の爪痕がたくさん残っているということで、あの、会場の皆様に

「皆さん、大丈夫ですかぁ」

というふうに最初に問いかけますと、

「いやいやあなたが大丈夫ですか」

と(杉田議員の笑い声)、あの、いうような、あの、お返事いただいたんですけれども、

大変、ご心配をおかけしておりますけれども、あの、見てのとおり、わたくし大丈夫でございますので」

あのぉ、(会場からの拍手に応えて)どうもありがとうございます。とは言え、あのぉ、私は、今も、あのぉ、しっかりと真実を皆さんに発信をさせていただくということの姿勢には、今までと変わりはありません。あのぉ、今回も8月16、17とジュネーブの国連の方に行ってまいりました。

えーこういった歴史戦の最前線の話とか。また、あの、今ちょっとね、SNSの発信ができないので、書けないんですけれども、あっ、今月発売のHANADAには、そのことは詳しく書かせていただいております。(拍手)ありがとうございます。こういった形で、またいろいろ皆さんの前でお話をさせていただける場におきましては、しっかりと情報発信をしてまいりたいと思います(以下略)

荻上氏も述べておられるが、とうてい「真摯に受け止め、今後研鑽につとめて参りたいと存じます」などという態度ではない。ここで杉田議員が言う、「しっかりと真実を皆さんに発信をさせていただくということの姿勢には、今までと変わりはありません」というのは、南京虐殺がなかったというフェイクを、これからも発信し続けるということだろうが、LGBTについても、また、ほとぼりが冷めれば、差別発言を繰り返すつもりなのだろう。

世界的に見れば、南京虐殺否定説は、アポロ11号が月へ行っていないとか、米国同時多発テロ(9.11)が米国政府の自作自演だというのと同じレベルのフェイクである。このようなものを信じているところから見ても、杉田議員(及び中山議員、原田議員、渡辺議員)は、事実を客観的に見極める能力もかなり低いようだ。


4 谷川とむ議員の発言とその問題点

(1)谷川とむ議員がLGBTは趣味のようなものと発言

また、自民党の谷川とむ議員は、7月29日の「Abema TV」(※)において、同性婚に関する法整備について、同性愛は"趣味みたいなもの"であり、法改正は必要ないと主張した。

※ 自民党を支持する立場のインターネット放送局。

これは、LGBTの問題について、国会議員にふさわしくない無知・無理解ぶりをばく露したものといえよう。


(2)谷川とむ議員の発言の問題点

ア 同性愛は趣味ではない

そもそも同性愛は趣味などではない。多数派(異性愛者)の男女が異性を愛するのと、まったく同じような意味で、LGBの方は同性を愛するのである(※)。また、多数派の男女が自らの性を生物学的な性と一致して自認するのと同様に、トランスジェンダー(T)の方は異なる性として自認するのである。これを趣味だとするのは、性的指向や性自認を、自らの自由な選択であるかのように言っているわけで、科学的な態度ではない。

※ 柴田篤弘「比較サベツ論」(明石書店1998年)など。

本稿を読んでおられる異性愛者の方は考えてみていただきたい。同性を性の対象として愛することができるだろうか? また、自分が生物学的な意味での性と異なる性であると信じられるだろうか? たぶん、できないだろう。

それと同じように同性愛者は異性を愛することができないし、トランスジェンダーは自らの性を生物学的性と同じだとは感じられないのである。それは、自らの意思で決められるようなものではないのだ。

イ 法改正の必要性はある

(ア)現状の問題点

また、法改正は必要ないと言われるが、現行の民法のみならず国民年金法、厚生年金保険法、労災補償保険法などは、いずれも同性婚を前提としていない(※)。このため、LGBTは様ざまな法律上の不利益を受けているのである。

※ 厳密に言えば、現行民法は同性婚を明文では禁止していない。しかし、実務ではそれは当然の前提であると理解されており、同性同士の婚姻届けが窓口で受理されることはない。

結婚できなければ、相続や遺族年金の対象から外れてしまう。労災補償保険法の遺族年金は事実婚であっても支給の対象となるが、同性の事実婚は対象とされていない(※)

※ この点、通達等で明確に否定しているわけではないが、筆者の知っている限り、同性パートナーに遺族年金が支払われたという例はない。濱畑芳和「LGBTの抱える生活問題と社会保証に関する諸論点」(龍谷法学2017年)は、明確に受給できないとする。

また、民法817条の3は、特別養子について「養親となる者は、配偶者のある者でなければならない」と定めるが、これは同性の事実婚では特別養子の養親となれないことを意味している。

この他にも子供の親権の問題(※)や、外国人の在留資格の問題など、さまざまな法令がLGBTを前提としたものとなっていないため、多くの問題が生じているのである。法改正の必要がないなどということにはならないのだ。

※ 同性カップルに子供がいることはそれほどめずらしいことではない。しかし、その双方に親権を認めるような制度がないのである。

(イ)法改正の必要性

現にLGBTの方が、国民の中に一定の割合で存在しているのであるから、これらの法令が同性婚を認めていないことは法の欠缺といえるのではなかろうか。これらの改正は、社会にとっての急務であるといえるだろう(※1)。婚姻に関して、同性を愛する人が、異性を愛する人よりも、享受できる権利のレベルが異なるということに合理的な説明がつくとは思えない(※2)

※1 山下敏雅「日本における同性愛者の法的、社会的現状」(アンドリュー・サリバン「同性愛と同性婚の政治学」(明石書店2015年)所収)など

※2 これについては、2013年にニュージーランドで同性婚を認める法律が成立したときのモーリス・ウィリアムソン議員のスピーチが参考になる。国の数でいえば、同性婚を認める国の割合は20%程度であり、G7の中では認めていない国の方が少ないのである。


5 自民党は本気でLGBTのために何かをする気があるのか

(1)自民党のLGBTに関する基本的な考え方

自民党は、2016年5月に「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」を公表した。その内容は、同性婚など制度改正についての言及がないなど、きわめて不十分なものである。

しかし、実現すれば一歩前進には違いない。そして、自民党は与党であり、国会で多数を占めているのだから、本当にその気があるなら実現するはずなのである。


(2)現実に現政権が行っているLGBTに関する対応

ところが、現政権において、実質的な対応は何一つ行われていないと言ってよい。労働・雇用の分野について言えば、せいぜい、セクハラやパワハラ対策のガイドラインや指針類、パンフレットの中に「性的指向・性自認」という言葉が申し訳程度に入った程度である。また、この他、他省庁ではパンフレットやWEBサイトでLGBTへの理解促進を行っている例もある。

しかしながら、政府の作成する「啓もうパンフレット」などは、ほとんどの事業者や国民は見る機会さえないし、見たとしても真剣に読まれることはまずないと言ってよい。WEBサイトなどは、関心がなければ閲覧されることさえないだろう。はっきり言って、本気で差別防止のための啓もう活動を行っているなどとはとても思えず、たんなるアリバイ的なものとしか言いようがないのである。

例えば、労災補償の遺族年金を同性のパートナーについて給付することについてなど、制度的な改正については、検討さえ行われていないのが現状なのである。


(3)自民党のLGBTについてのこれまでの発言など

ア 竹下総務会長の宮中晩餐会発言

2017年11月には、竹下総務会長による宮中晩餐会パートナー発言があった。この発言では、我が国の政府の人権意識の低さが国際的に話題となっている。

イ 杉田議員発言の党としての容認

そこへきて、今回は杉田議員の寄稿を党として容認したのである。このことなどからも分かるように、本当はLGBTへの差別対策など、まったくやる気がないのだ。

ウ 安倍総理の国会答弁

また、安倍総理は、2015年2月18日の参院本会議において、現行憲法の下においては同性婚は「想定されていない」とし、同性婚を認めるための憲法改正を検討するべきか否かは「慎重な検討を要する」と否定的な見解を示している。

しかし、現行憲法が法の下の平等を定めていること、性別による差別を禁止していることの趣旨にかんがみれば、現憲法の下でも同性婚は認められると解すべきである。

エ 政務調査会のパンフレット

そして2016年6月に自民党の政務調査会がまとめた「性的指向・性同一性(性自認)の多様性って?」には、「憲法24条の『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立』が基本であることは不変であり、同性婚容認は相容れません。また、一部自治体が採用した『パートナーシップ制度』についても慎重な検討が必要です」としている。

すなわち、自民党はLGBTに対して、制度改革を行うことはしないと公式に明言しているのである。


(4)自民党によるLGBTの政治利用

「政治利用」という言葉がある。国民のある要求に対して、本当はその気もないのに、選挙のときや都合の良いときだけ、その気があるように装って国民の要求を利用することである。

自民党は、「多様性を受け入れる社会を目指していく」などと言っているが、実はその気は全くなく、まさにLBGTの「政治利用」というべきであろう。


6 最後に(私は杉田議員に抗議する)

杉田議員に、言っておきたい。

【杉田議員へ】

① 何が「普通」かをあなたが決めるな

杉田議員、あなたは「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は、「秩序」がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません」と仰っておられる。

だが、少なくとも私は、"国家"に「常識」や「普通のこと」が何かを決めて欲しくはない。また、少なくとも私は、あなたにそれを決めてくれとは頼んでいない。それは、一人ひとりの国民が決めることだからだ。

男性が男性を好きになること、女性が女性を好きになること、これはあなたには「普通」ではないことかもしれない。だが、それが「普通」な人びとがいて何が問題だというのか。あなたが口を出すことではない。

② LGBTは社会の一員だ

あなたの言葉は、LGBTは「常識」や「普通」ではないのだから、日本という国から排除すると仰っておられるとしか聞こえない。だが、それはナチと同じ優生思想ではないのか。

あなたは、生産性がない国民には税金をかける必要がないと仰られる。これはLGBTだけの問題ではない。障がい者、シングルマザー、在日韓国人・朝鮮人など、すべてのマイノリティについても同じである。

なぜ社会の一員がいわれなき差別を受けているときに、それを解決することに税金を使えないのか。私には、あなたの主張はナチと同じに見える。ナチ党もまた、精神障がい者や、同性愛者を迫害した。国家にとって役に立たないからという理由でだ。

③ あなたに議員の資格はない

あなたが、もしこのような考え方を正しいと思っておられるなら、民主国家の議員としての資格はないと申し上げたい。

何度も繰り返しているが、国会議員が「常識」や「普通のこと」が何かの基準を定めて、「日本をそうした社会にしたくありません」などと主張することは、きわめて危険なことなのである。これは、LGBTだけの問題ではない。すべてのマイノリティの問題であるとともに、多数派の問題でもあるのだ。

自分はLGBTではないから関係がないなどと思うべきではない。少数派が排除される社会を国家が望むということにつながりかねない問題であり、これは、我々自身、我々の"文明"への挑戦である。

最後に、7月27日の自民党本部前の抗議行動で、参加者の方が述べた言葉をもう一度引用させて頂いて、本稿を終えたい。

【7月27日に抗議行動をされた鈴木南十星(なとせ)さんの言葉】

  • 私は生きてるだけで価値がある。
  • 生産性なんていう言葉で私を測ったりするな。
  • LGBT関係ない、性別関係ない、職業関係ない、年齢も関係ない、誰でも生きているだけで価値がある。

私は、この言葉を、無条件で支持する。たぶん、杉田議員や安倍総理にはこの言葉の意味を理解できないだろうが。

そして、すべての子供たちへ「君たちは、みな、生きているだけで価値がある」と、そう考える人がたくさんいる社会をつくるために、頑張っている大人も多いのだと伝えたい。