技能実習制度と人身取引


2021年2月15日、厚生労働省は「技能実習生に対する人身取引が疑われる事案への対応」について、都道府県労働局長に対して指示文書を発出しました。

まさに奴隷労働ともいうべき実態があり、そのような実態がめずらしくないからこそ、このような文書が出されるわけでしょう。

このような状況は最悪のものと言えます。技能実習生のためにも、日本の健全な発展のためにも労働条件を引き上げる、彼らを人間として扱う必要があります。




1 厚労省が「人身取引」状態の技能実習生への対応に取組む

執筆日時:

一部修正:

筆者:平児


2021年2月15日、厚生労働省は「技能実習生に対する人身取引が疑われる事案への対応」について、都道府県労働局長に対して指示文書を発出した。

この文書にいう「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することだと明記されている。

まさに奴隷労働というべき実態であり、そのような実態がめずらしくないからこそ、このような文書が出されるわけである。


技能実習制度は、名目は海外への技能の伝達を目的とするとされてはいるが、実態は低賃金の強制労働のようなものだとは、よく指摘される所である(※)

※ 例えば、朝日新聞DIGITALの2019年9月2日「ベトナム人技能実習生『差別され、ひどい扱い』朝日新聞社の在日外国人アンケート」、同2019年2月26日「『人間らしい睡眠とりたい』農業の技能実習生5人が訴え」、同2018年12月13日「技能実習生、8年で174人死亡 「不審死多い」と野党」、赤旗2020年9月18日「外国人技能実習生の生活保障 状況把握し支援急げ」など。

厚生労働省の冒頭の通達は、行政も“人身取引”の実態について対応をとらざるを得ないほど、現状が酷いことを如実に表していると言えよう。


2 出入国管理法改正で日本は「奴隷労働国家」になりかねない

2018年には、出入国管理法の改正作業で、失踪実習生の国の調査に「誤り」があったと指摘されている。失踪した外国人技能実習生への2017年の聞き取り調査で、失踪した技能実習生の失踪理由について、「低賃金」を「より高い賃金を求めて」とするなど、誤りと言うよりもごまかしと言うべきことが行われていたのである。

当時、つくられた次の動画をぜひ、ご覧いただきたい。失踪技能実習生の約7割に最低賃金違反があったのである。失踪しなかった技能実習生も似たようなものだろう。

このようなごまかしがあったにもかかわらず、同年12月には改正出入国管理法が成立し、外国人労働者を大量に日本に受け入れることとされた。しかし、この改正は、外国人が青年から壮年の労働可能期に、日本来て働いてもらい、高齢になって働けなると自国へ戻らせるという、まさに外国人を“労働力”としかみない制度であり、日本にとってのみ都合の良い制度と言わざるを得ない。

現実には、先ほども述べたように、技能実習制度について「人身取引」が行われていることに政府も対応せざるを得ない状況なのである。


3 日本の発展のためには外国人を仲間として受け入れるしかない

日本は、少子高齢化が世界でも類例を見ないほど急速に進んでいる。その中で、自民党政府の政策によって、若年労働者の不安定就労で働く割合が増加し、経済的貧困のために子供が作れない状況がますます進んでいる。

多くの才能のある若者が、不安定な就労条件の下で、その能力を十分に発揮することが困難な状況となっているのだ。急速に進むネット社会で、日本の企業は人材を活かすことができず、世界の中でますます負け組になりつつある。GAFAに太刀打ちできる企業などどこにもない状況なのだ。

どうすればよいのか。それは誰の目にも明らかである。にもかかわらず、自民党と一部の大企業の経営者にはそれが見えていないのだ。竹中平蔵氏のような新自由主義者と、自民党、財界は、労働者の労働条件を引き下げ、外国人労働者を低賃金労働者として雇用することによって、生き残りを図ろうとしている。

だが、それではダメなのだ。能力のある労働者に能力を発揮させて日本の発展を図るには、労働条件を引き上げることこそが必要なのだ。そして、外国人の能力を活用するためには、彼らを仲間として迎え入れる必要がある。

国を発展させるために、今必要なことは、人間を人間として扱うことだ。それこそが、人間がその持てる能力を発揮するための最低の要件なのだから。